ディズニー「ファストパス」導入が永遠に変えた事

まる1日の滞在中にいくつかのアトラクションを短い待ち時間で楽しむことができるが、アトラクションの合間は1時間か2時間ある。その間、何をするのか。

乗り物と乗り物の間はかなり離れており、その道中は子供たちの欲望をそそるようにじつに巧みに設計されているのだ。ついおねだりしたくなるミッキーのグッズ、飲みたくてたまらなくなるパイナップル・スムージー、等々。  

ディズニーはデューク大と同じような難題に直面していた。彼らは人気アトラクションへのアクセスという希少資源を持っている。このアクセスは、従来は早い者勝ち方式で割り当てられてきた。これはすべての人に同じ扱いをする公平なシステムに見えた。

「ファストパス」導入の3つの効果

今日でも何時間も行列待ちをする人々はいるが、その全員が、無料のファストパス+が用意されていることは知っているはずだ。ファストパス+にはいろいろと制約があって超便利というわけではないにしても、長々と待つことはとにかく回避できる。  

ファストパス+の導入で、ディズニーは3つの効果を上げている。第一に、長時間の行列待ちを辛抱できない人たちの苦痛を和らげた。第二に、行列待ちの時間を園内での買い物や飲食に充てさせた。

第三の効果は少々わかりづらいが、ディズニーにとってはおそらく今挙げた2つ以上に価値がある。それは、早い者勝ちがアトラクションの順番を決める唯一無二のルールではないという事実にゲストたちを慣れさせたことである。ファストパス+は、明確に正当化された限定的な割り込みが存在しうること、自分たちもその割り込みの権利を取得できることを人々に教えたのである。

続いてディズニーは次の一手を打つ。所有権の設計において天才的な一手だった。  

一部の超富裕層は、時間はなくても使えるお金は潤沢にある。最高裁の傍聴席やiPhoneのニューモデル発売で列の先頭を確保するために、行列代行業者にお金を払うような人たちがそうだ。こういう人たちは、ディズニーワールドで行列をスキップするためならいくらでも払う用意がある。

そこでこうした顧客を狙ってディズニーは「プライベートVIPツアー」なるものを考案した。言うなれば「スーパーファストパス++」といった体のものである。

このツアーを購入すればどのアトラクションも待たずに乗れる。それも、一日中。スプラッシュマウンテンを5回連続で乗ることも可能だ。一部の人たちにとって、この特権を手に入れるためなら大金を払う価値がある。

ディズニーが見つけたVIPツアーの「最適価格」 

これは、ディズニーにとって利益を増やす簡単な方法に見える。だがそこには落とし穴がある。もし、あまりに多くの裕福なファミリーが目立つ形で行列の先頭に割り込んだら、辛抱強く待っている人たちが怒り出すにちがいない。  

ディズニーは、プライベートVIPツアーの値段を十分に高くして利益を増やすと同時に、割り込みに神経を尖らせる行列待ちの人々に気づかれない方策を講じられる兼ね合いを探り、最適価格を見つけ出すことで、この問題を解決した。

実に巧妙な計算の結果、気づかれないように利益を最大化しうる価格は、シーズンによって3000~5000ドルとされた。これが1グループ当たりのツアー料金(入場料は別)で、7時間連続ですべてのアトラクションの行列をスキップできる。いかに大金持ちといえども、これ以上の金額と時間をディズニーワールドに費やす気はないということだろう。

プライベートVIPツアーには専属ガイドが1グループに1人付き、スマート且つ控えめに誘導してくれる。通常はファストパス+専用レーンから入るので、特別扱いと気づかれることはない。超人気アトラクションなどは、ガイドが通用口や出口から案内する。