起業において、もし生きるか死ぬかという極端なイメージを持っているなら、それは捨ててしまいましょう。そのどちらもよく目立つので、それが普通のことだと思ってしまいがちです。
たとえば、日本経済新聞朝刊で1956年から続くコラム「私の履歴書」や、テレビ東京の『日経スペシャル ガイアの夜明け』『日経スペシャル カンブリア宮殿』では、非常にかっこいいストーリーが紹介されます。
一方、脱サラして飲食店を始めたはいいものの、経営に行き詰まってしまう人もいます。
飲食は儲けるのが容易ではなく、流行り廃りも激しい業界です。生食パン、白いたい焼き、タピオカ、からあげ、カヌレ、フルーツサンド……。流行りに乗って脱サラしたらブームが去ってしまった、という話を一度は聞いたことがあると思います。
成功か破産か。さながら「清水の舞台から飛び降りる覚悟でやる」イメージでしょうか。
日本人は根性論が大好きなので、こういう表現は刺さる人には刺さります。しかし実際のところ、そんな意気込みで臨む経営者ばかりではありません。
たしかに日々の努力は欠かせませんが、無理にリスクを犯す必要は微塵もないのです。
ひと昔前、「起業するからには与信枠(利用限度額)を使って借金しろ!」というメッセージが広く出回ったことがありました。私はそれを真に受けて破産していった若者を何人も知っています。
起業にかぎらず、どの業界にもオピニオンリーダーがいるので、強いメッセージは浸透しがちです。でも、プレッシャーをプラスにかえて伸ばせる人ばかりではなく、プレッシャーに勝てず、凝り固まってしまう人もいます。
世の中には大成功でもない、大失敗でもない、地味なストーリーがたくさんあります。
見よう見まねで始めて、気がついたら創業30年。そういう会社は山のようにあるのです。しかも、細部の違いこそあっても、それらは大筋が同じストーリーを持っています。
決して意識的ではないにせよ、同じ思考プロセスをたどっています。その勘所をうまくつかむことさえできれば、地道に稼ぎ続けることは可能なのです。
商工会議所にかぎらず、勉強せずに起業した経営者は(背景や事業内容などこまかいところは違っても)同じことをしています。それは、「成功している誰かのやり方を、空いているほかの市場でやる」です。
同業者や取引先から「あそこにいっぱい仕事あるよ」と聞けばそこに支店を出すし、「どこに広告打ったの? 効果があったならウチもそこで出そう」と出稿しています。
なぜそんなことをしているのかというと、彼らは「お金を稼げるポイント」がわかっているからです。
下積み時代に肌身を通して学んだのか、地元の先輩から教えてもらったのかは人それぞれでしょう。いずれにせよ、最新の経営理論や、誰もが知る有名なフレームワークを学び、活用しているわけではなく、業界にいるから身についたことです。