コンサルタントは、一年目であっても、年上で経験も豊富なクライアントと話すことが少なくありません。どうしてそんなことができるかというと、ずばり「ファクトで語っているから」です。
クライアントの会社で、コンサルティングのプロジェクトのクライアント側の担当者になるような方は、みなそれなりの年齢の人です。さらに責任者は取締役とか部長クラスで、そういう方は、だいたい50歳前後。
実際にわたしが現場でやりとりする課長やリーダーといった人々も、35歳とか40歳で、とにもかくにも、新人のわたしからしたら、はるかに年上の人たちでした。
新人の目標は、そういう年上のクライアントの前に戦力として出してもらい、できれば、1対1でやりとりができるようになることでした。そのために必要となるのが、ファクトです。では、ファクトとは何なのか?
ファクトとは、事実のこと。つまり自分の経験談や、気の利いた言葉ではなく、動かしようのない事実をさします。事実の最たるものは「数字」です。数字は誰も動かしようがなく、否定もしようがありません。ですから、数字でものを言うのが、いちばん効果的です。
新人と呼ばれる時期も終わろうとするころ、経験もない一年目のコンサルタントの武器はそれしかない、とわたしは思うようになりました。
仮に、世界共通言語があるとしたら、それは英語ではなく数字です。それも、難しい数字ではなく、売上、出荷の個数、コスト、利益率などの単純な数字です。
わたしは、新人時代に、「営業の効率を上げる」ことをテーマにしたプロジェクトに配属され、そこで、はじめて1対1でクライアントと話す機会を与えられました。そのきっかけになったのが、とある会社の営業社員の行動に関するデータ分析でした。
そもそも、営業社員はどういった顧客を訪れるべきだと思いますか?
もちろん売れている顧客、より正確に言うと、「予算をたくさんもっていて、実際に買おうと考えている顧客」ですね。では、そういう顧客のところに、自社の営業社員はちゃんと足を運んでいるのか?
当たり前と思われるかもしれませんが、本当にそうなのか、数字による確認が必要です。わたしは、その数字の分析を当時のマネジャーに指示されました。作業は地道なものでした。典型的な、新人の仕事です。
まず、営業の日報を取り寄せ、誰がどこに何回訪問したのかを集計しました。そして、実際の売上実績や、マーケティング会社が提供する市場規模のデータとそれらを突き合わせました。
その結果、その会社の営業社員は、自社製品をすでに使ってくれている顧客に足繁く通っていて、結果的に、予算があるものの攻めきれていない顧客には、たいして時間を割けていない傾向があることがわかりました。
部長が知りたかったのは、この事実です。実際に、自社の営業社員がどういう行動をしているのか、部長は感覚的には問題を認識しつつも、実際の数字としては、事実を把握できておらず、人を納得させる「証拠」がありませんでした。
ですから、わたしたちはコンサルタントとしてそれを調べあげました。事実は、予想された通り。営業社員は、予算のあるところにではなく、行きやすいところに行っていたのです。