2月8日、在京キー局の第3四半期決算が出揃ったので、放送収入だけを抜き出して表を作成した。昨年度来の減少傾向はもはや定着した感があり、各局ともマイナスとなっている。PUT(総個人視聴率)が下がり続けているから仕方ない状況だ。
ただ、各局に差が出てきている。ここ数年、多くの局が「コア視聴率」などと称して10代から40代までの若い世代に絞った視聴率を目標として打ち出していた。そんな中、テレビ朝日だけは「コア視聴率」を掲げず、「相棒」など高齢層が好む番組を大事にしてきた。その結果なのか、3%のダウンで済んでいる。スポットCMの取引には個人全体視聴率と呼ばれる高齢層も含む指標が使われるので、逆に有利なのかもしれない。
一方、TBSはスポットは大きなマイナスだがタイムCMはわずかながらプラスだった。その結果、全体では3%のマイナスで済んだ。TBSは決算資料での見せ方も、タイムとスポットのCM収入と、配信広告、有料配信を並べており、コンテンツビジネストータルでの捉え方をしていることがわかる。今年度は巨額を投じて「VIVANT」を制作するなど意欲を見せ、広告収入の減少をコンテンツ展開でカバーする構想が見える。その成果には注目だ。
テレビ東京もこれに近い考え方で、放送事業とライツ事業を分けて表記している。利益では両事業がほぼ並ぶ額になっており、こちらもコンテンツビジネスを総合的にみていく姿勢だ。
日本テレビは圧倒的トップである分、CM収入の減少額も大きい。それを食い止めるべく、大きな策を打ち出した。11月に発表したARM(Ad Reach Max)プラットフォームだ。
テレビCMはその買い方や使い勝手を最近はネット広告と比べられ、一部の広告主から不便だと言われていた。その不満をいち早く捉えて、テレビCMセールスにネット広告の良さを取り入れる考え方だ。
例えば、テレビCMは放送前「中4日」のタイミングでCM素材を納品するのが常識だった。ARMでは、直前の納品でも対応していくという。天気に合わせてCMを出稿したり、スポーツ中継の結果に対応したCMも可能になるだろう。
さらに、視聴率をベースにしたGRPを指標に取引しているテレビCMを、ネット広告と同じインプレッションベースの取引も可能にする。これにより、TVerやYouTubeで流すCMと、テレビCMを統合して発注できる。広告主によっては、「とにかくF1にCMを多く見せられれば、テレビでもネットでもかまわない」という考え方もある。ARMで、そんなニーズにも対応していく。
2024年度末、つまり来年春から稼働させる予定で、ずいぶん早い発表だが先んじて世に知らせることで徐々に周知を図り、導入するテレビ局も増やしていく考えだ。2月2日には、東海地区の系列局、中京テレビが早くも名乗りを挙げた。
テレビCMの取引を変える考えは、前々から業界内で議論としてはあったが、変えるハードルが高いうえに旧来の手法にこだわる声も大きく、進まなかった。ここへ来てテレビビジネスの厳しさが増したため、具体化の流れができた。ただ、これによって放送収入の減少が食い止められるかは、やってみないとわからない。言えるのは、これまではやってみないとわからないことはやらなかった業界が、やってみる方向に転じているということだろう。
さて、気になるのがフジテレビだ。放送収入が9.4%の減少と、もっとも大きい。フジテレビが特に放送収入を落とす傾向が続き、いつのまにか民放4位にポジションが固定した。