いっときの成長不安は杞憂に終わった、のか。
アメリカの動画配信大手、ネットフリックスは1月23日(現地時間)、2023年度の決算を発表した。売上高は前期比6.6%増の約337.2億ドル(約4.99兆円)、営業利益は同23.4%増の約69.5億ドル(約1.03兆円)だった。
会員数は2億6028万人と、第4四半期(2023年10~12月)だけで1312万人増加した。
2022年度には第1・第2四半期と立て続けに会員数が減少し、成長余地に懐疑的な見方も広まった。しかし足元では順調に息を吹き返し、株価も会員数減少を発表した2022年4月以前の水準にまで回復。この1年半で、見事な復活劇を遂げたように見える。
ただし直近の好調ぶりは、特殊要因の影響も小さくない。実際、同社のスペンサー・ニューマンCFO(最高財務責任者)ビデオ会見で、「2023年は普通とは大きく異なる年だった」と振り返った。
特殊要因の1つが、パスワード共有の取り締まりだ。ネットフリックスは全世界で1億以上のユーザーがパスワード共有によって「タダ乗り」していることを問題視し、2023年に入ってから各国で取り締まりを強化してきた。
同年7月には、日本のユーザーにも「Netflixアカウントは、お客様ご本人および同一世帯にお住まいの方々で共有してご利用いただくことを想定しています」と記したメールが送信され、タダ乗りユーザーに対して自身のアカウントを作成するよう注意喚起していた。
結果、それらの取り締まり対象となったユーザーが正式な会員に移行したことで、会員数が大きく伸びている。
新たに始めた広告付きプランが、年間フルで寄与した効果も大きい。
かつては「視聴体験を損ねる」などとして広告付きプランに否定的だった同社だが、会員数が伸び悩む中で2022年11月に急きょ方針を転換し、安価な広告付きプランを導入。今では業績を牽引する成長ドライバーの1つとなった。
会社によれば、直近四半期(2023年10~12月)の広告付きプランの会員数は、前四半期(同7~9月)比で70%近く増加している。
会員数拡大に伴い、ネットフリックスは広告主にとっても魅力的なメディアとなりつつあるようだ。日本でネットフリックスの広告枠の買い付けを行っているGLASSの齋藤拓真氏によると、「広告付きプランの拡大によって、グローバル企業に限らず自治体などからも広告出稿の問い合わせが急増している」という。
順調な決算報告と合わせて、ネットフリックスはサプライズも用意していた。アメリカのプロレス団体「WWE」との独占配信契約の締結だ。
現地メディアによれば、10年間で50億ドル(約7400億円)にも及ぶ巨額契約となっている。2025年1月からネットフリックス上で、WWEの看板番組である「RAW(ロウ)」のほか、ドキュメンタリーなども全世界配信するという。
Amazonプライム・ビデオなどの競合が先行して注力してきたスポーツ配信の領域に、ネットフリックスもようやく本格参入することとなる。「WWE ロウの配信によって、ライブイベント番組の拡大というわれわれの願望をかなえられる。これは広告ビジネス拡大にも貢献するはずだ」。ネットフリックスのテッド・サランドス共同CEOはそう期待を寄せた。
業界内では、ネットフリックスのスポーツ配信への参入を“戦略転換”と受け止める向きもある。2023年4月の決算資料では、大手テック企業の間でスポーツ配信の競争が激化している点に触れつつ、「われわれはそうした競争にそれほどフォーカスしていない」とも記していたからだ。