「どうすればいいんですか?」と彼。
「先ほどの疑問文『どのようにすれば会社が面白くなるか?』を、『これが起こったらいいな~』と思うような文章にすればいいんです。最初は難しかったら、『日本一』とか『世界一』といった言葉を入れれば、そうなりやすいです」
そう僕がアドバイスをすると、彼は「どのようにすれば渋谷一魅力的な会社を築けるだろうか?」という魅力的な質問文を彼はひねり出した。
もしも僕が彼の会社の総務部員で、社長から「なにかのタイミングで会社のために使ってくれ」と3万円を渡されたとしよう。
考えられるシナリオは3つある。
さて、3万円の使い道はどうなるか。
Aだったら「じゃあ、給湯室のコーヒーのフィルターでも買っておくか」ぐらいだし、Bだったら「じゃあ、アイスクリームパーティでもやるか」となるし、Cだったら、その答えを考えるだけでわくわくする。
A、B、Cのうち、どの会社に入社したいかと言われたら、僕なら間違いなくCだ。
仏頂面の総務部長同様、ハワードから言われて、初めて「どのようにすれば」に出合った僕にも「!」がやってきた。言葉のフォーマットを変えただけなのに、こんなに差が出てくるとは、僕も驚きだった。
当時の僕も、フォーマットを変えることで新たな視点ができることを知った。
言えない問題を言ってみる。
考えつく限りの問題や懸念を読み上げ、「どのようにすれば」に置き換えていく作業が一巡すると、ハワードは「他にないか」と確認したあと、次の質問を続けた。「言わなかった問題、言えない問題、言ってはいけない問題はなにか?」。
――ん? 言えない問題? これは答えにくい質問だ。
心のなかを探してみると、「現行の製品は『売れていない』のではなく、製品そのものがカスだ」というのが出てきた。これも「どのようにすれば、すごい製品ができるか」と言い換えた。
さらにハワードの質問は続いた。「では次は、この会社のひどい真実はなにか?」。
――ん? おい、もっとかよ? と思ったが、「僕とアンディーの間がうまくいっていない」というのが出てきた。これは「どのようにすれば、(共同経営者である)ゼンとアンディーがエグゼクティブとして機能するか」というかたちに置き換えられた。
そうすると、「では最後に、あなた自身のひどい真実はなんだ?」とハワードは聞いてきた。
うーむ、これも答えにくかったが、「僕がCEOを下ろされ、駄々をこねている」というのを思い切って出してやった。
ほかのメンバーからも、どんどん出てくる。
これらを放っておいたままで、最初のほうに面白いのは、最初に出てきた問題よりも、後半に出てくる「言えない問題」「ひどい真実」のほうが、経営をやっていくうえで、より重要度が高いものが出てきたことだ。
出てくる問題をなんとかしようとしても、問題の根を絶やすことはできない。「問題の本質はなんだ?」と質問してもなかなか答えは出てこないが、このフォーマットでやると答えが出てくるから不思議だ。
これによって僕らは、
・経営の中心となるメンバーが緊張感を持ってそろった
・人の意見を気にすることなく、それを発表するしくみを手に入れた
・参加させられているという感じから、「なにかやってやろう」という気分
・前向きな雰囲気にする
・達成しようとしていることの本当の障害が前向きな形で明らかになる
・なんかやってやろうという気分になっている
を手に入れた。
ここでもう1つ、特記すべきことがあるとすれば、立場の違いに関係なく発言ができたことだと思う。
特に普段はそんなことを口にするチャンスが与えられていなかったジェニファーは興奮している様子だった。
僕やアンディーはいつでもこんなことは言えると思っていたのだが、実際にこういったプロセスをやってみると、見えないことが見えてくる。これだけでも、やってみる価値は高い。