第2のパターンは、これに対して「量的に難しい」場合である。伝えるべき内容が多すぎて、要点がまとまりにくく、何がメッセージなのか聞き手がつかみ損ねる状況。情報過多で、相手の思考がまとまらないのである。
伝えにくい内容を話さねばならないときは、皆さんはまず、「むずかしい」が、質的な問題なのか、量的な問題なのかを峻別するようにするとよいだろう。情報そのものが難解なのか、情報が過多なのか。
話の「むずかしい」の性質が特定できたならば、皆さんはそれに応じた対策を取ればよい。それが「抽象を具体化する」と、「具体を抽象化する」である。
話が質的に難しいとき、皆さんが選択すべき方法は「抽象を具体化する」である。メッセージをそのまま話してもわかりにくければ、具体的な例を用いて説明する。
たとえば、経済学における常識のひとつに、「最低賃金をアップさせると、社会的弱者の生活は苦しくなる」ということがある。どうだろうか、皆さんはこの抽象度の高いメッセージを聞いて、まったくもって納得がいかないのではないだろうか。最低賃金をアップさせれば、まさに最低賃金ぎりぎりで働いている社会的弱者の生活は、楽になるはずであろう、と。
しかし、これを具体的な例を用いて話せば、相手はたちどころに理解できるであろう。以下の通り。
“最低賃金が、仮に時給1000円から、1100円に増えたとしましょう。もし、あなたが会社経営者なら、どうしますか?人件費が10%もアップするわけですから、今のままの雇用を続けていては、会社は赤字になってしまうかもしれません。皆さんなら、どうしますか?雇用を減らしますよね。
では、そのとき雇用調整の対象になるのは、社内のどういう人でしょうか?経営者としては、生産性がどうしても低くなりがちな方から、辞めてもらいたいですよね。つまり、低スキルの方や、障害をお持ちの方、あるいは家事・育児と両立しながら時短勤務などで働いている社会的弱者の人から、経営者は雇用調整をせざるをえなくなります。
ですから、最低賃金アップは、社会的弱者の生活を苦しくしてしまう政策なのです。“
話が、量的に難しいとき。たとえば、映画や小説の内容を要約しろだとか、職場で起こっている課題を説明しろと言われた場合、話すべきことが多岐にわたりすぎて、そのまましゃべっても相手に伝わりにくいはずだ。
そうした場合に選択する方法は、「具体を抽象化する」。皆さんがやるべきは、その膨大な事項を、一言、せいぜい2-3にまとめるなら、どういうことになるのかを考えることである。
なるべく本質的なことを失わないようにしながら、抽象化してシンプルにまとめる。「職場の課題は一言でいうなら若手のモティベーション低下です」「ガンダムというのは、戦争の中でのヒューマンドラマなんです」「ラグビー日本代表が躍進できたのは、ONE TEAMになれたからです」「ももいろクローバーは、いつだって全員が全身全霊、一生懸命だから、推せるんです」などなど。
具体で話していても、結論が伝わらないなと思ったら、シンプルに要点をまず抽出して、それに沿って厳選したエピソードをひもづけていく。そちらのほうが、相手には内容を理解してもらえるようになるのである。
論理的な話し方にも、具体と抽象という2種類のアプローチがある。話のむずかしさが質にあるのか量にあるのかを特定し、一方で伝わらなければ、他方を使う。皆さんの中には、自然と使い分けていた方もおられるだろうが、以後はぜひ意識的にこれを使い分け、ご自身のプレゼン能力アップに活用してもらいたい。