ユーザーとしてもメリットがある。マルチプレイのゲームは旬のうちに遊ぶべきなので、とにかく盛り上がっているいまプレイすること自体に価値がある。いわば、ライブ感を味わえる状態になっているわけだ。
完成を待っていると発売が遅れ、そのころには「いま人気のゲームをまねしている」という話題性もどんどん目減りしていくだろう。あるいは、『パルワールド』に似たゲームが出てきて人気をかっさらっていってしまうかもしれない。
3つめのポイントは、『パルワールド』が「ポケモンでは絶対にできないことをしている」ところである。
いまやポケモンは世界中で人気の作品である。小さな子どもも楽しめるよう品行方正な作りになっており、「ポケモンを殺して肉にする」といった描写は難しい。一部の作品では「人間がポケモンに殺されかねない」なんてセリフがあるものの、それはあくまで設定レベルの話でしかなく、ダークな部分に踏み込めないのである。
一方の『パルワールド』は、グロテスクな描写こそ避けているが、そういったむちゃくちゃな要素を実現できている。まねする側だからこその特権といえよう。これは話題を呼ぶだけではなく、ユーザーが欲しかったものを提供できるということでもある。
ポケモンの世界でも、あるポケモンが労働したり、戦争に参加したり、ポケモンの一部を食べるといった描写は存在する。実際にはいろいろな歴史があると思われるが、ポケモンのゲームではそういう暗い部分はあまり描写されず、ちょっと触れたとしても本気では描けない。そして、こういう状況に子どもっぽさや物足りなさを覚える人もいるだろう。
また、ポケモンのゲームは多くの人が遊べるような作りを意識している。最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』ではオープンワールド形式になったが、広大な世界をうまく生かしているとはいえないし、バトルはいまだにコマンド選択式のレトロなRPGであり、最先端のゲームとは言いがたい。
テレビゲームは進歩の速いジャンルで、新しいものを作り出すことが評価されやすい。ゆえに挑戦的すぎる『パルワールド』を受け入れる人もいるわけだ。
とはいえ、『パルワールド』に気になる点がないわけではない。1つはいつ完成するのかという問題だ。
本作の前身にあたるゲーム『クラフトピア』は、2020年9月にリリースされてからいまだに開発途中である。発売から3年以上経っても未完成なのに、しかも後継作といえる『パルワールド』が出てしまったため、不評につながっている。
『パルワールド』もきちんとした完成形に持っていけなければ、中・長期的に否定的な意見が増える可能性がある。ましてやSNSに向けたバズコンテンツは瞬間的な速度ばかりを狙う傾向にあり、うまくアップデートを続けなければいまの熱狂が反転する可能性もあるだろう。
もう1つは、ポケモンをまねたことに対する拒否感だ。当然ながら、ポケモンのような生き物を銃で撃ったり、強制労働させたりすることを否定的に捉える人も存在する。
ポケモンにさまざまなタブーがあるのは、それがキャラクターコンテンツとして問題を呼ぶからである。『パルワールド』はそこにあえて飛び込んだわけで、話題性を得ると同時に反感も避けられないのである。
ともあれ、『パルワールド』が大きな話題になっていることは間違いない。そして、今度どう受け入れられていくかはアップデート次第である。単なる話題性だけのゲームであれば右肩下がりになり、そうではない作品になれれば単なるまねごとではなく『パルワールド』という独自作品として受け入れられるだろう。