インターネットが普及するにつれ、テレビの視聴時間は減少し、特にZ世代のテレビ視聴時間が短いのは、周知の事実であろう。ただし、それでもまったく見ない、というわけではない。NRI(野村総合研究所)におけるテレビCM効果検証サービスにより蓄積されたデータを分析すると、Z世代のテレビ視聴時間は平日平均で80~90分ほどはある。
若年層において平日平均で80~90分の視聴時間は長いと感じる人もいると思うが、大学生を対象としたインタビュー調査では一人暮らしの寂しい時間を紛らわせるために、帰宅したらとりあえずテレビはつける、といったコメントも得られたように、テレビ自体はつけているケースも多い。
しかし肝心なのは、きちんとテレビを見ているか、である。NRIの調査では、テレビはつけているけど、画面は見ずに聞いているだけだとか、他のことに集中しているためにながし聞きしているといった割合はZ世代に多くいた。
一方、NRIの調査ではZ世代におけるインターネット利用時間は平日平均で280~290分であった。毎日5時間近くもインターネットに触れていることについて、時間で見ると驚きであるが、通勤・通学の移動時間や休憩時間などの隙間時間にスマホをいじっている様子を見ると、塵積(ちりつも)で5時間近くになるのは納得できる。Twitter(現X)やInstagramなどのSNSやYouTubeやNetflixなどの動画サービスの利用時間はZ世代において圧倒的に多い。
Z世代において激増するインターネット利用時間の中で、どのように動画を楽しんでいるのか。そこにはZ世代ならではの「時間が惜しい」および「時間を大切にしたい」志向(タイムパフォーマンス、略して「タイパ」)と絡んで、特殊な動画視聴の在り方が生まれている。
「タイパ」は聞きなれない言葉かもしれないが、昔からある「コスパ」と似たものだと思えば理解しやすいだろう。コスパとは、使った費用(コスト)に対して得るモノ(パフォーマンス)の大きさを表す「費用対効果」のことである。
この「費用(コスト)」の部分を「時間(タイム)」に置き換えていわれ始めたのが「タイパ」である。つまり、使った時間(タイム)に対して得るモノを大きくしたいという気持ち、すなわち「時間対効果」という効率面を大きくしたい気持ちのことである。
この「タイパ」志向が基で、Z世代を中心に動画を倍速で視聴する、というスタンスが定着している。動画には通常、再生スピードを1.5倍や2倍にする機能が備え付けられており、大学のオンライン講義などでは生講義でないなら「倍速視聴」は当たり前で、「エンターテインメント」としての映像作品も倍速で見る人が多いという。
これら「タイパ」重視の背景にはZ世代に強い「失敗したくない」志向がある。動画配信サービスが充実化したことから、友人知人との話題となる作品にはドラマだけでなく、映画やアニメなど膨大な数に上る。それらをチェックしておかないと友人知人との会話においていかれてしまうおそれもあり、話題となりそうな作品は1つでも多くチェックする必要がある。