健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

「何もかも面倒くさがる高齢者」に医師が伝えたいこと

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やる気が出ない

ついで、何に対しても「やる気が出ない」というのも、気力を削いでしまう要因になっているようです。

高齢者になると、何かと若いときと比べてしまうものです。「昔は、もっとやる気にあふれていた」とか、「昔は、何をやっても面白かった」とか。

しかし、ある程度の年になれば、何に対してもやる気が起きないものです。何を見ても「……それはやったな」ということになってしまい、興味を示すことができないのです。

若いときと同じような意欲を、何に対しても持つことは難しいのです。
創造性の高い生活をしているはずの作家でさえ、一部の例外を除いて、60歳を過ぎてくると小説がなかなか書けなくなります。

高齢になってくれば、やる気がないことが普通なのです。
明日、何もやりたいことがない、何もしたくない。むしろそれが普通のリタイア後の心理状態であり、それで困ることはありません。
いつまで意欲を持っていきいきしているというのは、メディアが作った幻想に過ぎないのでしょう。

病気と共存

ある年齢になってくれば、何も病気がないということはなくなっていくものです。
やる気がなくなっている状態に、さらに病気となると肉体的にも精神的にも大変になってくるでしょう。

しかしいまは、病気もかつてほど恐れるものでもなくなってきたように思います。
例えば、がんの生存率はかなり変わってきています。
2008年の「院内がん登録」という国が指定するがん診療病院240施設の約24万件のデータを用いた解析によれば、がん全体での10年生存率が59.4%です。つまり6割が10年後も生きていたということです。
さっきのデータは20年近く前のものですから、現在ではさらにがん治療は進んでいます。がんだからもう先がないと考える時代ではなくなってきたのです。

つまり、高齢になってくれば、病気との共存をしていく可能性が高いのです。
歳で病気だからもうしかたがないと考える時代ではないのです。

何もしないいさぎよさ

高齢になっても社会に参加したり、スポーツをしたり、趣味を生かして楽しく過ごすことが正しいと思ってしまいがちです。
だから何もしないことに対して罪悪感を持ってしまいます。

しかし実際には、私が接している患者さんを見ていても、とくに趣味に生きることもなく、淡々と過ごしている人がたくさんいます。

「定年後何かしないと、ぼけてしまう」というようなことを言われると、焦ってしまいますが、大切なことは、何もしなくとも、自由であることです。何もしない自由を持てることに意義があるのです。

何もしなければしないで日々終わっていきます。
それでも、そんな日々をつまらないと思う必要はありません。それより、「また明日何かを考えてみよう」というように、ぼんやりとした前向きな考えをするようにしましょう。
何もしたくないと思っていても、生活していれば、それなりに動き回っているものです。そうしていれば、判断をしなければいけないことがでてきます。それで十分なのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界一受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。日本老年医学会特別会員。推理作家協会会員。

著書

80歳でもほどよく幸せな人はこういうふうに考えている

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米山公啓 /
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