ちょっと話は変わりますが、寝たきりとは真逆の亡くなり方で、「ピンピンコロリ」というものがあります。
これは文字通り、亡くなる直前までピンピンしていて、急にコロリと亡くなってしまうというものです。苦しまずに済むことから、幸せな生涯の終え方とされています。
男性では1割くらいが、死ぬ間際まで健康に暮らしているそうです。つまり、ピンピンコロリで死ねるのです。
その一方で、女性にはピンピンコロリがそれほどいません。骨折などで寝たきりになるケースが女性に多いことが、ピンピンコロリとはいかない理由の一つとされています。
メディアでは、高齢者に対して不安をあおるためか、悪く伝えてしまう傾向が強いように思います。どうしても、寝たきりが多いというほうへバイアスをかけた状態で報道しやすいのです。
結果として、高齢者の社会だから寝たきりが増えているというように、安易な見方がされがちです。
実際には、医者にかかっていない高齢者は多く、4割以上は医者知らずだと言われています。しかし、こういった事実は、あまり報道されません。病気の人の統計はありますが、健康な人、医療とは関係のない生活をしている人のデータはなかなか集めにくいという事情も関係していそうです。
話を戻して、寝たきりについてです。
北欧をはじめとして欧米では寝たきりがいないと伝えられることがあります。
これは、欧米の医療が進んでいるからではありません。寝たきりがいないのではなく、寝たきりという状態を作らないのです。
日本のように、末期医療になって口から食べられなくなっても、鼻から管を入れたり、胃ろうを作って栄養を強制的に入れたりすることがないのです。
欧米ではこういった行為は、虐待と見なされます。
口から食べられなくなれば、点滴もしませんし、肺炎を起こしても抗生剤の注射もしません。
一応、日本でも、高齢者の末期の状態に対して、経管栄養や胃ろうをやらなくなってきましたが、まだ行われています。こうした栄養を強制的に投与する延命治療が、日本の寝たきりの期間を延ばしているのは間違いありません。
高齢者が寝たきりになってから死ぬまでに1年前後しかないとは書きましたが、それでも短くはないでしょう。
日本において寝たきりの期間が長くなってしまうのは、欧米のように、口から食べられなければそこで医療は終わりという態度を、医療を提供する側がはっきりと取れないことに原因があります。
とはいえ最近では、入所する際に、蘇生はしないとか、胃ろうはしないとか、いろいろ家族と話し合うようになってきました。本人の意思がはっきりしているなら、本人の意思を確認しておくべきでしょう。
老いに関して多数の著書のある作家の樋口恵子さんは、寝たきりになる前の、ヨタヨタヘロへロになってしまう時期を「ヨタヘロ期」と言っています。
健康寿命からはずれて、不健康な状態が普通になり、病気でどこかが痛い、思うようにからだが動かない、でもまだまだゆっくりやれば動ける、そんな毎日を送るようになる時期です。
どんなに健康を意識して生きてきた方であっても、まったく病気がなくて80歳に到達するのはむしろまれでしょう。ヨタヘロ期になれば、病気とともに生きているという状態のほうが普通なのです。
だからこそ、体には病気があっても、それをものともせず、前向きに人生を楽しめるという「気持ち」が大切です。それを持っていることこそが、寝たきりの期間を減らすことになります。
それには、運動機能が低下してきても、楽しめる趣味を持っていることが重要でしょう。
面白いことが何もないということが、最も危険なのです。
健康年齢を長くするためには、血圧に気をつけましょう、血糖管理をしましょう、運動をしましょうといったように、医学的な視点で対策を考えてしまいがちですが、それにはどうしても限界があります。
それより気にかけるべきは、気持ちです。どうすれば、体が弱ってきても心を前向きに保てるか、考えておくのです。
人生を楽しむ方法をどれだけ持っているか、それが、寝たきり状態になることを過剰におびえることなく、幸せに長生きできるコツです。