人事が目指すべきキャリアの2つ目は、いまの会社で経営層を目指すことです。ずっと同じ会社にいたい場合、人事だけを続けていくのは難しいかもしれません。下も育ってきますから、自身の領域を広げ、管理部門の責任者や役員をめざしましょう。
たとえば、私の前職の人事部で上司や部下だった人たちは、経営企画部長やCFO(最高財務責任者)、営業本部長、あるいは副社長になっています。要は現場の長や管理部門全体を見る役割です。私も人事部長をしていたとき、経営者から「お前も役員を目指すのなら営業も見ろ」と言われました。
ただ、私は役員になるつもりはありませんでした。若い頃に営業を何年もやった結果、自分には向いていないと自覚していましたし、管理本部長になるのなら数字も見なくてはいけません。私は数字が苦手でした。何より30代になったときに、自分のキャリアを人事に絞ろうと決めたので、そのキャリアを薄めたくなかったのです。
だから会社を辞めて独立したのですが、ずっと同じ会社にいることを大事にしたい人や、人事以外の領域に幅を広げたい人、そして役員を目指している人は、組織マネジメントのプロとして、組織全体を改革する経営層を目指すのがいいでしょう。
人事が目指すべきキャリアの3つ目は、人事コンサルタントとして独立することです。私が選んだのは、この道でした。
私が在籍していた企業は、当時は人事制度が未整備だったため、将来に不安を感じた若い社員がどんどん辞めていきました。私は会社の理念を見つめ直し、人事ポリシーを新たに構築し、等級制度・評価制度・給与制度に反映させ、キャリアステップを明確にすることによって、2つの会社で離職率を大幅に下げることに成功しました。
起業を志したのは、同じような問題に直面し、苦しんでいる多くの企業の人事制度に危機感を持ったからです。そういう会社を少しでも減らしたい。自分の経験やノウハウを活かして「人を育てる仕組み」を提供することによって、人を育てる志のある会社を応援していきたい。そのように考えたのです。
この志を実現するには、コンサルティングをするだけでなく、人事担当者の能力も引き上げる必要があると考え、人事担当者を育成する講座「人事の学校」を始めました。コロナ禍を機にe-ラーニング型の学習プログラムとして提供するようになりましたが、2009年の開講以来、述べ6000人以上の人事担当者に受講いただいています。
最近は副業を解禁する企業も増えたので、会社を辞めなくても業務委託という形で他社の人事を手伝うこともできます。人事関連は需要があるので人事部長として一定のキャリアを積んだ方でしたら、転職でもコンサルでも業務委託でも仕事はあります。
人事のプロといえる人材は、実はあまり多くありません。採用、教育、給与といった各論に強い人はいても、人事の全体像が見える人はなかなかいません。 “ぼっち人事”の方は、1人で全部をこなさなくてはなりませんが、逆にすべてを身に付けられるチャンスです。その経験を活かして、人事のプロ、あるいは組織マネジメントのプロを目指してみてはいかがでしょう。
人事というのは、組織づくりに携われるスケールの大きな仕事です。会社を変える重要な役割も担っています。新しい価値を創造できる人材は、多くの企業が求めています。人事をきっかけに豊かなキャリア形成ができることを心より願っています。