その人の将来を考えたら、絶対に異動をさせるべきといった場合があります。逆に仕事ができず逃げ出したくて異動したい人もいます。そこを見極め、「人事としてはこうしたい」と強い意思を持って現場と交渉します。それが必ずしも実現するとは限りませんから、「今年はできなかったけど、来年は必ず実現するぞ」と思いながら仕事を続けていくことも大事になります。
人事異動案を実現させるために必要なのは、経営者のバックアップです。経営者と話をして「彼を異動させたら部署の直近の業績は下がるかもしれませんが、長い目で見たら今やらないとダメなんです」といったことを伝えて、異動や配置について働きかけていきます。
経営者との対話は、できれば避けたいものです(ですよね?)。それでも経営者の話は聞かなくてはいけません。喧嘩もしなくてはいけません。責任あるポジションについたら、正しいと自ら信じることに対しては、相手が社長でも役員でも管理職でもきっぱりと言わなくてはならないのです。経営者といつも意見が一致し、お気に入りであり続けるのは難しいですから、ある程度の覚悟が必要です。私も人事部長時代は常に辞める覚悟で仕事をしていました。
企業経営において長期的なビジョンや中長期的な戦略を最も考えているのは、やはり経営者です。経営者の視点を常にそばで聞くことができるのは、ビジネスパーソンとして大きな学びになります。これは人事担当者ならではの貴重な機会ともいえるでしょう。
人事部門には、社内の人の流れ(人材フロー)をつかさどる「人事・採用」、給与や福利厚生および規定関連の業務をつかさどる「給与・厚生」、評価制度と社員教育をつかさどる「育成・評価」という3つの機能があります。その他、これらの「企画機能」があります。
その中でも「人事・採用」という仕事は、「可能性に賭ける」ものといえるでしょう。会社の、そして、個人の可能性を広げていく仕事です。
「その人」を採用するということは、「その人の可能性を最大限に引き出し、能力を発揮してもらい、そして会社に利益をもたらす」であろうと判断して行われます。異動・配置も同じです。「その人」の異動は、「次の部署で活躍する、より飛躍する」かもしれないと判断して行います。それが成功すれば「しめたもの」です。そして、そういう場面を見ることが「この仕事をやっていてよかった」と、人事担当者として意義を感じられるときです。
一方、「可能性に賭ける」ということは「失敗もある」ということです。私も入社や異動を口説いた結果、多くの成功もありましたが、失敗もありました。入社後まったく化けない、異動しても変わらない、問題社員化する事例もありました。
しかし「失敗を恐れて無難にこなす」という考えでは、人事の仕事は務まりません。その結果として、会社は何も変わりません。ですから「可能性に賭ける」という意識をぜひ持ってください。その上で、自分自身の「可能性を見極める力」を研ぎ澄まして、高めていってください。多くの成功例を積み上げていく、それがこの仕事の意義なのです。
また、組織がしっかりしていないと評価も育成もできません。「1人で8人の部下までしか見られないから、こういう組織単位にしましょう」「部と課の機能を明確にしましょう」といった提案ができるよう組織論も勉強しておきましょう。管理職であっても組織論を知っている人は意外と少なく、中小企業は部と課の違いも曖昧だったりするケースが多いです。
組織づくりに携わり、会社全体を正しくしていくことに関わる立場になれば、人事の仕事はますます面白くなります。会社の成長を促す。それが人事という仕事なのです。