しんどいことがあっても私が人事の仕事を楽しく続けることができたのは、一緒に働く仲間たちと同じ目的や目標を持つことができたからだと思います。人事担当者は、社内の人には言えないことをいっぱい知ることになります。外には絶対にバラせない、だけど自分の中にとどめておくのが難しいことは人事部内で共有し、お互いにどうしようかと考えられる環境があったのが良かったのかもしれません。
ぼっち人事の方は、人事部の仲間はいないかもしれません。けれども、管理部門の責任者はいるでしょう。上司や管理本部長、あるいは社長かもしれませんが、そういう人たちと同じ目的や目標を持ち、課題を共有していくことが大切です。
隣に座っている経理や総務の方でもいいでしょう。人事がひとりで突っ走ることはできません。管理部門全体として何を目指していくのか、どうやって会社の業績を伸ばしていくのか、社員を幸せにしていくのか。一緒に考え、協力してくれる仲間を見つけましょう。管理部全体が人事部門みたいなかんじでやっていけたら理想的です。ただし、守秘には気をつけましょう。
そして、採用した人がいるのなら、定期的に情報交換することをおすすめします。前回お伝えしたように、人事の世界では「煙情報こそ大事」と言われています。火のないところに煙は立たぬという言葉がありますが、火が燃えている、たとえば「退職願い」を出されてしまったら、まず止められません。大切な人材が退職願いを出す前に手を打たなければなりません。そのために必要なのは、現場の声です。
採用した人たちに会って「現場どうなってるの?」と話を聞いてみてください。すると「〇〇さんは今の部署でかなり苦しんでるみたいですよ」「●●さんは最近顔色が悪いです。上司とうまくいってないんじゃないですか」「□□さんは、本当は主任になりたくないって言ってましたよ」といったリアルな状況を知ることができます。
煙情報を入手し、相手の本音を把握している状態で本人と話せば、より良い解決策が見つかります。守秘すべき情報も多いですが、現場の課題を把握できれば管理部全体でそれを解決することもできます。そういう仕掛けが大事ですし、どんな施策を打つにしても現場の協力は不可欠です。まずは仲間を増やしていくことを考えましょう。
いい採用ができれば、採った人も人事の味方になってくれます。そのために大切なのは、採用の際「うちの会社はこうなんですよ」と本当のことを言うことです。応募者は理想的なイメージを抱いて入社してきます。会社を良く見せようと嘘を伝えると、入ってから「話が違うじゃないか!」と逆恨みされてしまいます。本当のことを伝えて「だから言ったじゃないですか」と笑顔で言えるような関係を目指しましょう。
たとえ人事担当者は1人でも、上司や管理部の仲間、採用した人、そして現場の人たちと仲間になっていけばいいのです。採用に関しては、現場に絶対ニーズがあります。それらをヒアリングし何とか埋めようとすれば、「いい人を採ってくれたね」と感謝される日が来ます。それによって現場からも信頼されて、距離感が縮まります。
若手の頃、私は上司から「現場とは飲みに行ってはいけない」と言われていました。人事という立場上、特定の社員とだけ親密な関係になるのは良くないということだったのでしょう。しかし別の上司は「どんどん現場と飲みに行け」と言いました。どちらが正しいという事でもないですが、こちらに分別があれば、できれば現場の人たちとも飲みに行き、仕事からちょっと外れたぐらいのコミュニケーションをしなければ、本音で話せるような関係にはなれません。
ですから私は、できるだけ多くの人たちと飲みに行くことを推奨しています。泥酔して迷惑をかけたり、秘密をぺらぺらと喋るような酔い方をするのはいけませんが、ざっくばらんに話をして「コイツこういうやつなんだ」とわかってもらう機会をつくることは大事です。飲みに行く相手が偏るのはダメですが、そういう仕事外のコミュニケーションもある程度していくことが仲間づくりにつながっていくのです。
現場のことを知るためには、自分を開示しなければなりません。コミュニケーションの頻度は高いほうがいいでしょう。ある程度ハメを外してもいいと思います。自分のことを知ってもらおうとしなければ、相手も近づいてきません。人事担当者は、そういう距離感も大切です。人事だって、ただの人。特別なことなんて何もないのです。
次回につづく