人事制度というのは、実はとてもシンプルな仕組みで出来ています。基本となるのは、「等級制度」「評価制度」「給与制度」の3つの柱で、それぞれがリンクしています。
等級制度で「会社が社員に求めるもの」と「キャリアステップ」を明示し、評価制度で「会社が社員に求めるもの」と「社員の現状」との乖離(ギャップ)を確認し、給与制度で「評価」を給与・賞与に結びつける。そして、評価制度で明らかになったギャップを、研修や勉強会といった「教育」で埋めていく。
これらが人事制度のおもな役割です。人事制度を導入することによって、社員のキャリアステップを明示でき、教育すべきことも具体化します。自社に人事制度がない、あるいは不明確な状態だったら、まずはここから取り組んでみてください。
「大手企業がやっているような人事制度は、うちみたいな中小企業では難しいです。それでもちゃんとした制度は必要なのでしょうか?」
そんなご相談をいただくこともありますが、たとえ数名の小さな会社であっても、人事制度は必要です。キャリアステップが見えることで、社員は将来の不安を感じにくくなり、自身の成長も可視化できるのでモチベーションが上がります。一定の仕組みがあると、経営者も人事担当者もストレスが軽減し、他の施策も打ちやすくなります。
人事制度は、人を育てるための仕組みです。小さな会社だから制度は必要ない、ということにはなりません。むしろ中小企業の方が大企業よりも社員一人ひとりが担う役割が大きいため、キャリアステップや評価基準を示すことは重要といえるでしょう。
特に最近の若い世代は「この会社にいれば成長できる」と思えば会社を辞めませんが、「この会社にいても成長できない」と思ったら、優秀な人材ほど辞めていきます。社員の離職を防ぎ、定着率を高めるためにも、ぜひ検討してみてください。
人事制度のつくり方は、詳しく説明すると本1冊くらいの内容になってしまいます。それについては、拙著『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』(西尾太/日本実業出版社)や『人事で一番大切なこと』(同上)を参考にしていただけると幸いです。
人事制度を整え、「教育」に取り組む際には、まずは「会社が社員に求めるもの」の全体像を描いて、優先順位の高いものから実施していきます。ぼっち人事の場合、同時に複数のことに取り組むのは難しいですから、優先順位は特に重要です。
上の図は人事制度の構造を示したものです。たとえば、「階層別に求められる行動」を示すものが「等級制度」。等級別の行動・能力の教育施策が必要だとしたら「階層別研修」や「適性検査とフィードバック」「課題設定」などの育成手法が考えられます。
「職位者に求められる行動」を周知するためには、管理職教育が必要です。職位とは、部長や課長など、会社での地位、仕事をするうえでの立場を表す言葉です。管理職を育てる手法としては「管理職研修」や「360°サーベイ」などがあります。
上記のように「会社が社員に求めるもの」を整理し、「今年は管理職研修からやろう」など、優先順位の高いものから研修や何らかの教育施策を実施するといいでしょう。学ぶべきことを明確にして、系統立てて教育し、それが評価に反映されるようになれば、研修は高い効果を発揮し、社員それぞれが確実にスキルアップします。
ただし人事制度の導入には、ある程度の時間がかかります。経営者から「そんなに待っていられない。社員教育のためにすぐに研修をしてほしい」などと言われることもあるでしょう(私も経験があります)。
そういう場合は、まずは「何を教育するかをみんなで考える研修」をおすすめします。自社における「階層別に求められる行動」や「職位者に求められる行動」とは何か、どのような教育が必要なのか、社員みんなで話し合うのです。個々の意見を抽出し、それらの意見も反映しながら、人事制度を構築していきましょう。
次回につづく