人事ポリシーを決めるべきことは、多岐にわたります。「働く目的」「モチベーションリソース」「就業観」「何を大事にして評価するか」「何に対して給与や賞与を払うか」「代謝概念」など、さまざまな項目について明文化する必要がありますが、「ぼっち人事」が最初に取り組むべきことは会社によって異なります。
この表は「会社が社員に求めるもの」をまとめたものです。たとえば「当社の社員らしい行動」を決めたら、それに伴う人事施策や、社員に明示させる指針・要件、評価とフィードバックの方法、報酬や教育施策、育成手法などについても決めていく必要があります。
人事制度の整った会社は上記の要素がほぼ揃っていますが、御社はいかがでしょうか。自社に「ないもの」は何か、チェックしてみてください。
仮に「当社の社員らしい行動」は決まっていても「行動指針」がなかったら、まずはそこから考える必要があります。等級制度はあっても機能していなかったら「等級別行動能力要件」について話し合います。「ぼっち人事」は、この表を経営者と共有し、自社に「ないもの」を見つけ、その部分から取り組んでいきましょう。
その際に大事なポイントは、「なぜやるのか」を考えること。人事制度も採用手法も研修も、何らかの「やり方」に過ぎません。それをどのような「考え方」で行うのか。まずは自社の「人に対する考え方」を決めていくことが重要です。
たとえば「長く働いてほしい」という考え方なら、それに合った人事制度や採用手法や研修があります。「人は新陳代謝していくほうがいい」という考え方なら、それに適した「やり方」があります。「人に対する考え方」を軸にして、適切な施策や方法論を探していく。これが人事の基本になります。
最優先すべきは「WHY(考え方)」。「WHAT(なにをするか)」や「HOW(どうやってやるか)」ではありません。この順番を間違えると、会社の軸がブレて、どんな施策をしても失敗を繰り返してしまいます。まずは経営者と対話して、やるべきことの優先順位をつけていく。そこから人事の基本を学び、会社の軸となる「人に対する考え方」を決めていく。人事の仕事は、このようにして始めることをおすすめします。
経営者と対話し、やるべきことの優先順位が見えたら、今度は管理職の話を聞きに行きます。技術部門や営業部門、管理部門など、社内にはさまざまな部門があるでしょう。それぞれの部署は今どうなっているのか、人は足りているのか、余っているのか、課題や要望は何か、管理職の皆さんにヒアリングしてください。
現場がどうなっているのかを知らなければ、人事担当者は信頼されません。管理職から現場の課題や要望を聞いて把握し、人材配置に活かしていく必要があります。
ここで大事なポイントは、経営者と事前にちゃんとすり合わせをしておくこと。経営者より先に管理職と話をしてしまうと、現場の要望だけを一方的に聞くことになってしまいます。経営者と現場では、さまざまな点で考え方が異なります。
たとえば、経営者が「新卒を20人採る」と言っても、現場は「5人で十分」と言ったとします。経営者は次の経営者を育てるために多くの人材が必要と考えていても、現場は今の仕事で精一杯で人を育てる余裕がなかったりするわけです。
5年後・10年後のことを考えている経営者と、今年と来年のことしか考えていない現場の管理職では、発想がまったく異なります。どちらを優先するかといったら、やはり経営者です。現場の管理職から先に話を聞いてしまうと「新卒は5人で十分」ということになってしまいます。だから最初に経営者と話すことが重要なのです。
この順番を間違ってはいけません。経営者と話したうえで管理職と対話し「社長はこう考えているからこうしたいと思っています」と伝え、現場の要望や課題も反映しながら人事ポリシーを固めていく。このような順番で人事業務に取り組みましょう。
とはいえ、人事の知識がまったくない「ぼっち人事」の方にとっては、不安も多いと思います。経営者と対話し「何をやるか」が見えてきたら、人事経験のあるフリーランスや副業で人事をやっている人に業務委託をしたり、私のような人事コンサルタントに相談をするのも1つの方法です。経験者から学んで知見を得た段階で、派遣さんやパートさんに事務的な業務をお願いするのも良いでしょう。
最近は定年後に外部ブレーンとして活躍する人事経験者も増えています。人事経験者を新たに雇うのはリスクが高いので、月に20〜30万円を払って、週1で会社に来てもらったり、オンラインで相談する方法もあります。まったく未経験の「ぼっち人事」の方は、社外の人的リソースを活用する方法も検討してみてください。
次回につづく