限られた人数の人事部門担当者、あるいはいきなり人事に任命された「ぼっち人事」がまず最初にやるべきことは、「経営者との対話」と「基本の勉強」。前回そのようにお伝えしました。
では、具体的にいったいどんな話をすればいいのか、どんな勉強をすればいいのか、具体的に説明していきましょう。
人事には大きく分けると、「ベタベタな人事」「ベタな人事」「おもしろ人事」という3つの段階があります。図の下のほうから見てみてください。
「ベタベタな人事」とは、労働法規や就業規則、労働時間や労務リスクの管理、給与の計算や支給、社会保険など、企業人事を行ううえで最低限必要となることです。
「ベタな人事」とは、採用・任命・配置など「人」にまつわる計画の策定や実行、等級制度・評価制度・給与制度など「人事制度」の構築や運用を指します。
「おもしろ人事」とは、採用イベントやインセンティブ、自己申告制度、FA制度など、自社らしさを発揮できる応用編です。
一見すると図の下にある「ベタベタな人事」の勉強から始めたほうが良いと思われるかもしれません。実際、労働法規や給与計算、社会保険の勉強から始める人も多くいます。しかし私は、その方法はおすすめしません。「ベタベタな人事」は、社労士さんに聞けばわかります。「ベタな人事」も、最優先ではありません。「おもしろ人事」は、基礎を身につけてから取り組むべきです。
図の最上段に「中長期的人事戦略・人事ポリシー」とありますよね。これこそが経営者と真っ先に話すべきことであり、「ぼっち人事」が最初に学ぶべきことなのです。
中長期的人事戦略とは、人事における中長期的なビジョンのことです。企業経営において中長期的戦略が重要であることは、経営者やミドルマネージャークラス以上のビジネスパーソンにとっては釈迦に説法でしょう。けれども「人」のことまで中長期的に考えているでしょうか?
人が採れなかったり、育たなかったり、離職者が増えてしまったりする原因の大半は、実は「人」に対する中長期的なビジョンの不足にあると考えられます。
たとえば、ある企業では「人を育てる」という経営理念を掲げていましたが、事業規模の拡大によって人材不足に陥り「即戦力が大事だ」と方向転換。その結果、「社長、言っていることと、やっていることが違うじゃないですか」と社員が猛反発。会社への不信感が広がり、離職者が続出する事態となってしまいました。
会社の「人に対する考え方」がブレると、社員からの信頼を失ってしまいます。それは会社全体の業績の低下にもつながるでしょう。このような悲劇を防ぐためにも重要なのが、「中長期的人事戦略」と「人事ポリシー」なのです。
人事ポリシーとは「企業の、人に対する考え方」を指します。あらゆる人事施策の軸であり、それぞれの企業の個性ともいえます。
たとえば、何を大事にして評価し、給与・賞与を払うのか(成果なのか、行動なのか、能力なのか、あるいは年功・勤続・年齢なのか)。どんな人材を求めるのか(リーダーシップとマネジメント、どちらを重視するのか)。どのような人材に育てるのか(コア・スペシャリスト・マネージャー・オペレーター)。
これらの考え方を決めておかないと、採用も評価も教育もできません。景気やマーケットの動向による変化があっても、会社としてのブレない姿勢を貫いていくためには「よりどころ」となる考え方が必要なのです。まずは経営者と話し合い、自社の人事ポリシー=「人に対する考え方」を決めることから始めてください。