社員成長の決め手は、人事が9割

一人きりの人事――『ぼっち人事』は、まず何をするべきか?

2024.04.10 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第22回

人事課題は解決に時間がかかる。潜伏期間が必要

中小企業やベンチャーが人事担当者を任命する場合、よくある課題は、まずは採用でしょう。人が採れない、すぐに辞めてしまう、離職者が増えている。そんな状況に陥ると「うちの会社にも、やっぱり人事が必要」という話になります。

もしくは、教育です。人が育たない、管理職が成長しない、もっと自分で考えて動いてほしい。このような危機感を持った経営者が、人材育成に力を入れるために、人事担当者を任命するケースも少なくありません。

経営者が感じている「自社の課題」とは何か。採用なのか、教育なのか、給与なのか。人事の領域は幅広いため、全部をいっぺんに変えることはできません。だらこそ、何から変えたらいいのか、最優先すべきミッションを確認するのです。

ただし、たとえば経営者から「教育だ。研修をやってくれ」と言われたとしても「わかりました。すぐにでもやります」と言ってはいけません。「すいません、半年か1年、お時間をいただけませんか」とお願いするようにしましょう。

なぜなら、すぐに研修をやっても、あまり効果が出ないからです。社員を教育するために研修を行うのはいいことです。世の中には、いい研修もたくさんあります。しかし多くの会社は、単発で終わってしまうケースがほとんど。効果が持続しません。覚えているのは、食事とお風呂だけ。そんな結果になりがちです

その原因は、目的が曖昧だからです。研修において大切なのは、評価制度や等級制度、あるいは給与制度があり、キャリアステップが明確になっていること。

何をしたら評価が上がるのか、昇格するのか、給与が上がるのか。それらが明確になっていない状態で研修をやっても、あまり意味がないのです。研修は、階層ごとに求めるスキルや行動を特定してから、その獲得のために実施すべきです。

人事の全体像を把握し、基礎から勉強する

これは採用においても同様です。求める人材像やキャリアステップが不明確な状態で人を採っても、ミスマッチが起こります。離職者を減らすためには、会社の制度を根本的に見直す必要があります。要は、採用にしても、教育にしても、課題を解決するためには、それなりの下準備が必要なのです。

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前述したように、人事という領域はとても幅広く、それぞれの分野が密接に関連しています。「採用」をするためには、入社後の「教育」についても考えておかなくてはいけません。「評価」の基準もしっかりと決めておかなければいけません。それが「給与」の仕組みにも影響してきます。

個別の施策を考える前に、まずは人事の全体像を描く必要があるのです。
それには、やはり時間がかかります。

私は人事経験者でしたが、前職で人事の全体像を構築するまでに4〜5ヶ月はかかりました。未経験の「ぼっち人事」でしたら、まずは人事の基礎から学ぶ必要もあります。なおさら時間がかかることでしょう。経営者に前ページの図を見せて、人事の全体像を把握し、基本を学ぶ、潜伏期間をもらうことが必要です。

もちろん経営者から「すぐに教育をやれ」などと言われることもあるでしょう。私もそういう経験がありますが、その会社では何を教育するかが明確になっていなかったので、「まずは何の教育をするかをみんなで考える研修をしましょう」と提案しました。このようにして時間を稼ぐ方法もあります。

どんな仕事もそうですが、人事は特に基本が重要です。拙著『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』(西尾太/日本実業出版社)や『プロの人事力』(西尾太/労務行政)、またはオンライン講座「人事の学校」を見ていただいてもいいでしょう。他の方の本や講座でも構いません。まずは人事の基本を学んでください。

そうして人事の全体像が見えてきたら、次のステップに進めます。それは「人事ポリシー」=「企業の、働く人に対する考え方」を決めることです。これがすべての人事施策の出発点になります。これについては次回、詳しくお伝えします。

次回につづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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