人事の重要な仕事の1つといえば、「人材配置」です。人事担当者は、配属(働く部署と仕事を決める)、異動(部署や仕事の変更など)、任免(責任あるポジションに任命する、あるいは外す)といった組織の人材フローをつかさどる役割があります。
「つかさどる」とは、これらの人材フローの決定は必ずしも人事部門が決めるという訳ではなく、「仕切る」ことを意味しています。いつまでにどのような決定をしなければならないかを定め、その期日に向かって、決定者に決めてもらうように働きかけるわけです。そして、そこに人事の「愛」や「想い」を反映させることも大切です。
では、この人材配置とは、どのように考えたらいいのでしょうか?
「適所適材」か「適材適所」か、悩む人も少なくありません。
今回は、この2つの使い分けについてお伝えしたいと思います。
まず「適所適材」は、ポストや仕事があって、そこに人を当てはめる考え方です。そこにいる「人」に「何をしてもらうか」を考えるのではなく、「仕事ありき」で「その仕事を誰にしてもらうか」を考える。ジョブ型雇用(一人ひとりの職務を明確にして責任の大きさと成果で報酬を決める制度)は、まさしく適所適材的な観点による人事制度です。
ジョブ型雇用に限らず、人材配置は「適所適材」が基本です。たとえば、経理メンバーが足りなくなったときに「総務の〇〇って数字に強かったよね。彼に経理をやってもらったらいいんじゃない」と、“仕事ありき”で、その仕事ができる人を当てはめる。この場合、本人が何をやりたいかは二の次。その仕事ができる人が社内にいなければ、外から採用するか、派遣やアルバイトを雇うか、あるいは業務委託するのかを考えていきます。
一方、「適材適所」は、「人」の才能や意欲から「何をしてもらうか」を発想する考え方です。「この社員はこんな才能がある、だからこの仕事を任せよう」と長所を伸ばすような配置だったり、「今度はこの仕事をやりたい」「あの部署に行きたい」「今の部署を離れたい」といった希望を聞いて、その仕事やポストに空きがあれば異動を働きかけることもあります。
人材配置のベースは「適所適材」ですが、人事担当者はこうした「適材適所」の発想も重要になります。「それぞれの才能が生かせる部署はないだろうか」「一人ひとりの希望をどうにか叶えられないだろうか」という愛や想いを持って、各部署に働きかけるなど「適材適所」の実現に汗をかく。
そのためには、各社員の得意不得意、何がモチベーションとなっているか、短所は何か、長所は何かを細かく把握することがとても重要です。また、それぞれの社員が今の仕事で評価されたうえで次のステージに行きたいと願っているのか、単に今の仕事から逃げたいだけなのか、その背景も見極めなくてはなりませんが、その異動が本人や会社にとってプラスになるのなら、各部署の上長に交渉して、とことん尽力すべきでしょう。
本人が異動を希望しても引き取り手がない場合は、その部署の上長に「Aさんが欲しいって言っていましたよね。Aさんをそちらに異動させますから、Bさんも一緒に面倒みてもらえませんか」と二人まとめての異動を提案するといったことも必要になったりします。
組織が求めているのは「適所適材」ですが、人事の想いや愛は「適材適所」。どちらかに偏らず、その両面から働きかけることが人材配置のとても大事なポイントです。
「適所適材」か「適材適所」か。これはいろんな考え方があると思いますが、少なくとも人事は適材適所から発想すべきです。そのためには、社員一人ひとりの志向を把握しておくことが重要です。このまま今の仕事を続けたいのか、異動したいのか、個々の想いや願いを知っておく。個人の志向を把握する方法は、いろいろあります。
代表的な方法は、異動や転籍、将来のキャリアの希望などを社員が自ら企業側に伝える「自己申告制度」。あるいは、社員が自ら自分が希望する部署に経歴・能力・実績などを売り込んで異動や転籍が認められる「フリーエージェント制度」。社員一人ひとりと面談してヒアリングしてもいいですし、普段の何気ない会話から知る方法もあるでしょう。
方法論は何でも構いません。大切なのは、社員一人ひとりの意志を知ること。本人が機嫌よく仕事をしているのなら、そのまま置いておいたほうがいいかもしれませんし、マンネリになっていたら、違う仕事をさせたほうがいいかもしれません。それぞれがどうしていったらいいのかを一緒に悩むことが、人事担当者の大事な役割なのです。
短期的に見ると、異動をさせないほうが個々のパフォーマンスは上がります。やったことのない仕事をすれば、当然パフォーマンスは下がりますよね。そういう意味では、異動を少なくしたほうが短期的には個人の成果や会社の生産性は向上しやすくなりますが、中長期で見たらどうなのかということもよくよく考えとおかないといけません。
50人100人の会社であっても、いずれ経営を担える人材がいたりするものです。そういう人は異動を繰り返し、視野や経験の幅や広げたほうが将来のためになるでしょう。一方、その部署で専門性を高めていったほうが、本人のためにも、会社のためにも良い場合があります。人事はそういうところもよく見て、配置を考えていかなくてはなりません。
社員一人ひとりの希望を聞いても、必ずしも全員の願いを実現できるわけではありません。しかし、10%の社員でも願いが叶い、その人が「異動を希望したら本当に叶っちゃった!」と社内で話したら、会社の雰囲気はガラッと変わります。「会社って社員のことをちゃんと見てくれているんだ」と、会社に対する印象も変わります。
自己申告は「必ずしも叶うわけじゃありませんよ」という前提で書いてもらうものですが、本当に叶った人が10%でも15%でもいたら、社内の世論が変わるのです。そういう意味でも、本人の願いをできるだけ叶えることが重要なのです。
異動希望と評価を結びつけて「評価が高い人ほど異動希望を出すと実現する」という実例を示していくのも良いでしょう。評価が高い人は現場が手放したがりませんが、「本人が希望しているので異動させないと辞めちゃうかもしれませんよ」と上長や、そのまた上の上長を説得して異動を実現できれば、社内全体のモチベーション向上も期待できます。
評価が低い社員も、上司との相性があるかもしれません。本人の希望と上司の話、両面を聞くことも大切です。上司の部下に対する異動希望と残留希望を把握できるような仕組みをつくることもおすすめします。社員数が少ない会社なら、1人ひとりにヒアリングすることも可能です。人事担当者は、そういう活動をちゃんとしていきましょう。
人事は、社員一人ひとりの志向を把握して「人」に関する情報が集まるようにすることが肝要です。申告情報や評価情報はもちろん、できるだけ各部署をうろうろして、それぞれの上司に「最近どうですか?」と折に触れて聞いていく。それもまた人事の大切な仕事です。普段の顔色や周囲の評判もキャッチして、人材配置に活かしていきましょう。
次回につづく