そんな状況にしないためにも、社員に改めて「理念」を浸透させていくことが必要です。理念は通常、ミッション・ビジョン・バリューに分解されます。
この3つに分解されたものを社員にしっかりと伝え、採用時にも「これを一緒にやるよね」「同じ方向に進むよね」という人を採用していきます。ですから、理念は人事を有効に機能させる目的としても非常に重要なのです。
では、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。まず必要なのは、「理念浸透」の教育です。理念は口に出してみると「意外と浸透していたな」ということもありますが、口に出さなくなると次第に薄れていきます。
社員数が100人を超えてくると、社長の想いや考えは近くにいた人たちには伝わっているものの、その下には伝わっていないことが多くなります。管理職研修などで部長さんたちに「何のために働いているんですか?」と聞いても、理念の話はまず出てきません。これはとても危険な状態です。
理念は、ただ壁に貼って唱和しているのではなく、社員ひとりひとりが本気で考えることが必要です。たとえば、社員を集めて「これってどういう意味なんだろう」と、みんなで理念について議論をする研修をするのは有効な方法です。
会社の理念を「ビジョンブック」という読み物にして、社員に配布している会社もあります。社長をインタビューして、それを文章にまとめて「こういう想いでやっているんだ」ということをHPなどで改めて社員に伝えている会社もあります。
また、理念に基づいた行動指針をみんなで話し合って、自社の価値観を検証し、整理し、共有している会社もあります。たとえば、以下はその一例です。
あなたの会社の理念は、どのようなものでしょうか。また、どのような行動指針がありますか。改めて見直して、社員に浸透させていきましょう。
そして、採用においても「理念」は最も重要なポイントです。「ナレッジ」「スキル」といった採用基準だけではなく、「理念共感」という項目を設けましょう。
理念共感とは、自社の理念について自分の言葉で語れること。また、理念に関して納得感のある質問をしてくることです。「当社の理念がホームページに書いてありますけど、お読みになりました?」「どう思われました?」といった話をしながら、「これはうちの価値観なので、それに共感してもらって、行動に移してもらうことが、採用の第一条件です」と言わなくてはいけません。
そこを取り違えて「能力が高いから」「経験者だから」といった理由だけで採用してしまうと、能力や経験があっても理念が合致しない人を採用することになります。理念に共感できない人を採用すると、会社が荒れます。
人事というのは、企業とそこで働く人のベクトル(方向性)を合わせることだと私は考えています。採用も配置も育成も、企業が目指す方向を一緒に目指していく人を見つけ、理念を実現することが人事の目的でもあります。
そこを無視して人事施策を先行していくわけにはいかないので、「人事」を有効に機能させるうえで最も重要なのは「理念」なのです。
理念の実現というと、もっともらしい話になってしまいますが、これをちゃんとやっている会社が実は伸びています。人気企業や業績を上げている企業のHPなどを見てみてください。理念がしっかり浸透していることが伝わってくるはずです。
では、社員が共感する「理念」とはどんなものなのでしょうか。具体的な「理念」について、次回詳しくお伝えしたいと思います。
つづく