社員成長の決め手は、人事が9割

なぜ多くの会社は、問題だらけなのに「人事」部門を作らないのか

人事部門が必要になるタイミングとは?

なぜなら人事業務は、「とりあえずちゃんとやっておいてくれればいいから」という位置づけになっているので、それほど多くのことは期待されていないのです。

給与計算や入退社、採用などの手続きは、やらなくてはいけない大事な業務ではありますが、社長の関心は会社の成長や戦略など、もっと先にあります。実際のところ、「面白くないことはお前らでやっておいてくれ」と思われていることも少なくありません。

これは人事に限らず、経理や総務など、管理部門すべてがそうでしょう。「お金を稼いでくる部門」と「そうでない部門」に分けられ、前者が優先されるわけです。

しかし、ビジネスが成功して、お金が回りだすと、経理は必要になってきます。人が増えれば「オフィスどうする?」といった課題も出てきて「総務も大事だよね」という話になります。

つまり管理部門で最初に立ち上がるのは、まず経理。次に総務。人事は、いちばん最後です。

創業期の会社は、夢があります。希望もあります。みんな前を向いて仕事をしていますから、お給料が少なくても、残業が多くても、気にする人はほとんどいません。

人数が少ない会社では、社長のカリスマや人柄が直に感じられるので、みんな社長を向いて仕事をしています。社長もすべての社員が見えているので、会社に一体感があります。こういう段階では、不平不満を述べる社員も少なく、人事部門がなくても特に問題はないのです。

ところが、社員が50名を超えた頃から、社長がすべてを見ることは難しくなってきます。社長の下に管理職が置かれるようになり、社長と社員の間に人が入ることによって、社長の強烈なリーダーシップが現場に届きにくくなります。

急成長している企業はどんどん人を採用しますから、さらに会社が大きくなると、前を向かず、横や後ろを向く人材も入ってきます。創業期以降に入ってきた社員は、社長と直に接する機会も少ないため、「給料が少ない」「残業が多い」といった不平不満が増えてきます。

次第に「なんであんなヤツを採っちまったんだ」と社員同士がもめるようになったり、ハラスメントやメンタルヘルスなど、さまざまな労務問題が起こり始めます。

「あれ、おかしいぞ。人事って大事なんじゃないの?」
「ちゃんとやったほうがいいんじゃないの?」

人事部門が必要になってくるのは、まさにこうしたタイミングです。

大事なのはわかるけど、今じゃなくていいよね

多くの企業では「成長期」の後期にあたる社員数100名くらいの段階になると「うちの会社でも人事部って必要なのでは?」という話が出るようになってきます。

とはいえ、すぐに人事部門が立ち上がることは滅多にありません。人事の重要性がいまいち理解できていない。何から手をつけたらいいのかわからない。結果としてそこにリソースを割かず後回しになってしまっている。そうしたケースがほとんどです。

さまざまな問題が起きて、やっと人事の重要性に気づいても、優先されるのは、やっぱりお金を稼いでくる部門であり、経理や総務です。人事の管理業務は、特に楽しくも面白くもないので、そもそも社長はやりたくないし、社労士さんに任せておけばいいやと思われているのです。

「大事なのはわかるけど、今じゃなくてもいいよね」

そうして人事は放置されたまま、時間だけが過ぎていきます。今あなたの会社も、そういう状態なのではないでしょうか。

人事とは、漢方薬みたいなものです。効果があることはわかっていても、誰もが漢方薬を飲むわけではありません。「ちょっと調子が悪いな」くらいでは病院も行きませんし、「とりあえずお店で買った薬を飲んでおけばいいよね」でおしまいです。

しかし「人」に関する問題は、目には見えにくいのですが、どんどん会社を蝕んでいきます。やがて慢性的な成人病のような状態になって、抜本的な治療が必要になってきます。

社員が定着しない、優秀な人材が辞めていく、採用がうまくいかない、評価制度が曖昧……。これらは、まさにそういう状態です。放置していると、手遅れになってしまうかもしれません。

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国も人事の重要性に気づき、「戦略人事」や「人的資本経営」といった言葉が盛んに使われるようになってきました。今こそ「人事」と向き合い、改めて見直してみませんか?
次回は「今まさに人事が必要な理由」についてお伝えしたいと思います。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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