キャリアアップ、資格試験、公務員試験、TOEIC、リスキリングなどにおいて、予備校や専門学校に頼らず一人で勉強するのはうまくいかないものです。いわゆる「独学」が難しいといわれる理由は――人間の意志がそもそも弱いからです。ただし、人間の意志は弱いという事実を受け入れることで、独学の成功率を高めることができます。この本には、忙しい社会人でも実践できる、独学を成功させるためのノウハウが満載です!
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私は格闘技を20年ほど続けています。中学校の柔道、大学から総合格闘技、社会人になってからはブラジリアン柔術を主に練習しています。私の人生でこれだけ続いている趣味はほかにありません。
私の練習方法は少し変わっていて、準備運動や技の練習を一切しません。テクニックを解説する教則ビデオも10年ほど見ていません。何をやるかというと、いきなり実戦練習をするのです。
格闘技では「スパーリング」と呼ばれる試合に即した練習をします。私は道場に着くとすぐに着替え、そのままスパーリングに参加します。60分ほどのスパーリングを終えたら、そのまますぐ帰ります。かつては準備運動も基礎練習もちゃんとやっていましたが、社会人になって時間がなくなり、この方法が定着しました。
客観的に見るとだいぶ危険に見えますが、この方法でケガをしたことは一度もありません。大学以降で、最大のケガは突き指です。病院へ行ったことは一度もありません。
この、いきなり実戦練習をする方法になってから、無理をせず、時間もかからずに練習できるので、効率もよくなり、出場したトーナメントの8割くらいで優勝できたように記憶しています。
気をつけていることが一つだけあります。それは、「最初から頑張りすぎない」ことです。具体的には、最初のスパーリングの相手は、中級者にお願いするようにしています。
ブラジリアン柔術は帯で習熟度がわかれるシステムになっており、白帯、青帯、紫帯、茶帯、黒帯の順にレベルアップします。なお、私は黒帯です。一本目は、青帯か紫帯の人を選びます。
なるべく力を入れずに、体を動かすためです。車の運転のように、ローギアから徐々にエンジンを温めていくイメージです。
上級者は、こちらも力を入れないと対応できないので避けます。初級者は経験が浅く、力任せに予想外の動きをしてくることがあるので、こちらも避けます。
その点、中級者は精度がそれほど高くなく、予想どおりの動きをしてくるので、力を抑えても対処が可能です。絞め技も相手が眠る直前ぐらいに脱力し、相手の動きに合わせて、基礎的な動きを繰り返します。
そうすると、次第に体が温まり、調子がよくなります。最初から全力を出すと、疲れやすくなるだけでなく、ケガもしやすくなります。
この考えは、じつは勉強にも共通します。大切なのは、「ローギアで始めること」「負荷の大きい内容は中盤に行うこと」の2点です。
これまで書いたとおり、努力を積み重ねるにはモチベーションが重要です。つらい日々が続くので、自分自身を鼓舞して高い意欲を維持しないと、すぐに三日坊主になってしまいます。
勉強を続けていると、「今日はやりたくないなぁ」と思う日が必ず来ます。誘惑に負けると1日がムダになり、合格する可能性が少し下がります。そのような日が繰り返されると、目標を達成することは難しくなるでしょう。
やる気がない日の対策はただ一つ、甘えを無視してテキストを開くことです。少しずつルーティンをこなしていくうち、エンジンがかかり、いつの間にかやりたくなかった気持ちがどこかに消えていきます。気持ちが乗らなかった日でも、ノルマをすべてこなすことができれば、合格に一歩近づきます。
受験勉強の日々は、やりたくない気持ちとの戦いです。つまらない、つらい、嫌だというネガティブな気持ちに打ち勝って、努力を重ねることが重要です。
そのために、ルーティンの組み方にコツがあります。
それは、1日の最初に行う内容は、なるべく簡単なものにすべきだということです。具体的には、比較的得意な科目のテキストを読んだり、条文や根拠資料を読んだりすることが該当します。
逆に、あまりおすすめしないのは、考えることが必要になる複雑な計算問題を解いたり、文章の構成を考えなければならない理論問題に取り組んだりすることです。
格闘技の練習では、体が温まる前にハードな内容に取り組んだら、疲れやすくなるばかりでなく、ケガをしてしまう可能性もあります。疲れない内容から徐々に調子を上げていくことで、その日の練習を実りあるものにすることが可能になります。
きつい練習をするのは、誰でも嫌です。私も格闘技を始めたばかりのころ、道場に着いたのに、練習が嫌になって逃げ帰ってしまったことがあります。自分にとってやりやすい練習をするようにしてからは、道場に向かうことが苦になることはありません。
勉強でも、最初から厳しい内容でスタートするルーティンを組むと、出鼻をくじかれてノルマをこなすことが失敗しやすくなります。また、つらい勉強が待っていると思うと、朝から憂鬱になってしまうでしょう。
サボる気持ちを抑え、勢いをつけやすくするために、1日の最初はとにかく楽な、やりやすい内容を選択すべきです。そして、調子の出る中盤に重めの内容を組みこみ、後半はまた楽な内容にします。
階段状に徐々に負荷をかけ、ピークから下げていくことを心がけましょう。難しい問題は頭を使うため、負荷がかかります。それに比べると、簡単なテキストを読むだけであれば、ボーッとしていてもノルマはこなせるため、負荷は多くありません。
参考に、私が司法書士試験の際に実際にやっていたルーティンを紹介します。
ほぼ通勤電車でしか勉強していませんでした。電車に乗って、朝一番に行っていたのは、憲法や司法書士法など、覚える項目の少ないテキストを読むことだったと記憶しています。
だいぶ時間が経ったので、科目についてはあいまいですが、ボリュームの多い民法や会社法は避け、さらっと読みやすい科目に取り組んでいました。テキストを読むだけであれば、テキストを開いて目で字を追うだけで、あまり頭は使いません。分量が少ない科目であれば、それほどストレスなく勉強を開始することができます。
一般的に、一度始めてしまえば途中からサボってしまうことは少ないです。朝、仕事に行くのが気乗りしない人は多いはずですが、仕事の途中で「今日は働きたくないから帰ろう」という気分にはなりにくいです。
一度動きだしてしまうと、なんとなく体が動きます。そのため、とにかく始めてしまうことが重要です。やりやすい科目から始めることで自分を甘やかし、徐々に負荷をかけていく方法がサボりを防ぐことになるのです。