キャリアアップ、資格試験、公務員試験、TOEIC、リスキリングなどにおいて、予備校や専門学校に頼らず一人で勉強するのはうまくいかないものです。いわゆる「独学」が難しいといわれる理由は――人間の意志がそもそも弱いからです。ただし、人間の意志は弱いという事実を受け入れることで、独学の成功率を高めることができます。この本には、忙しい社会人でも実践できる、独学を成功させるためのノウハウが満載です!
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前回、目標を達成したときのメリットを明確にする必要がある、と指摘しました。とはいえ、メリットが明確であっても、努力を継続するのは簡単ではありません。
減量でも、資格でも、節約でも、思いたって行動を始めたときのことを思い出してみましょう。
どうでしょうか。最初はよくても、すぐにやめてしまったと思います。じつはそれは当然のことです。目標をたてることは、これまでの習慣を変えることと同じ。ある行動が習慣になっているのは、それが自分に合っていて心地よいので、変えるのはとても大変なのです。
たとえば、私はおいしいものをお腹いっぱい食べるのが好きです。ついつい、二郎系のラーメンや大盛りのかつ丼を食べてしまいます。もちろん、頭では食べたら太るとわかっています。とくに土日が危ないです。「平日に一生懸命働いたのだから……」などと理由をつけて、自分に甘くなってしまうのです。
私なりに、やせる方法はよくわかっています。鶏ささみや鶏ムネなどたんぱく質を中心にカロリーを抑えた食事を腹8分目までとります。朝起きたらランニング、寝る前も筋トレで汗を流します。時間があれば格闘技の練習に行ってもいいでしょう。1週間に1・5キロ落とすペースを保てば、2か月で12キロ減量できるでしょう。
字にするととても簡単ですが、最初の一歩でつまずきます。味付けを工夫した低カロリー食は1日目こそ問題ないものの、2日目、3日目と続くうちに「またか……」と食べる気が失せます。そのころにラーメンやカレーの看板を目にして、「今日1日くらいはいいだろう」と思ってしまったら、もうおしまいです。ダイエット前の習慣が復活し、体重もすぐに戻ってしまいます。
多くの人の独学がなかなかうまくいきづらいのも、これと同じです。難関試験も合格への道筋は見えています。難しい試験はほとんど相対評価を行うので、どんなに難しい問題が出題されても、受験者の上位5%程度に入れば合格できます。試験範囲も指定されており、あらかじめ十分な準備を行うことも可能です。たとえば、行政書士試験は500~1000時間、司法書士試験は約3000時間、公認会計士試験は3500~6000時間ほどの勉強が必要とされているようです。仮に1日5時間、週1日休むペースで年300日勉強するなら、年間1500時間が確保できるので、どの試験も3年強の時間があれば合格できることになります。
もちろん、そんなに簡単にはいきません。テキストを買い、時間を作って、「さあやるぞ!」という気分になります。ですが、社会人や学生の場合、勉強は仕事や学校がない空き時間に行うことになります。生活のためのアルバイトや育児があれば、その時間には勉強できません。そうすると、勉強はそれまでスマホを見たり漫画を読んだりしていた時間を削って行うことになります。これが落とし穴です。習慣を変更し、楽しみをつらさに変えることになるため、当たり前ですが、とてもつらいのです。
また、意志の力だけで勝てるほど、誘惑は優しくありません。苦しくなるころに、「今日だけ」「1回くらい」などの甘いささやきが頭の中に広がり、気づけばすっかり集中できなくなります。独学は自分以外に管理してくれる人はいません。「1回だけ」と誘惑に負けると、次の日も勉強する確率は大幅に下がります。そのうちテキストを開かなくなって、すっかり元の暮らしに戻ってしまうでしょう。こうして、三日坊主が完成します。年末に「今年もダメだった」と振り返ることになります。
独学が失敗する原因は、大半が「続けられない」ことです。三日坊主を乗り越えるために、「達成したときの具体的なメリット」のビジョンが必要なのはすでに指摘しました。ただし、それだけでは足りません。楽しみを犠牲にするコストを上回るメリットを認識できなければ、気持ちが楽なほうに傾いてしまいます。では、それを強く認識するためにはどうすれば良いのでしょうか。