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鍋奉行が家に来た。
私の食生活を請け負うと、わけの分からん言い分を述べて。
自分を鍋師だと豪語する。とびきりおいしいご飯を作る。生活費も出してくれる。ただその男は、自然消滅したはずの元彼で。
鍋師などという聞いた事もない職も、相手が大学時代に付き合っていた元彼だということにも、多少は目をつぶってもいいと思ってしまっている自分に少し腹が立つ。
ただ、社会に出て数年もすれば、それなりに働き方というものも分かってくる。
代わりに、私はそれなりに色々なものを犠牲にしたと思う。三十路に片足突っ込んだような年齢になっても彼氏の一人いないし、余暇を楽しむほど何かに熱中している訳でもない。
ほどほどのお金を得て、ほどほどの暮らしを送っていることに、ちょっとした寂しさはあるけれど、大きく不満はない。そんな生活。
四月になって、今年も代り映えの無い年度が始まるかと思っていたが、そうではなかった。
何年も前に分かれたはずの元彼が、旅行鞄いっぱいの大金を持って私の目の前に現れたのだ。
彼は言った。
「俺に毎日、お前の飯を作らせてくれ」と。
鍋師、という職業があると彼は言う。
鍋と共に歩み、鍋の深遠に到達するために生涯を捧げる者。それが鍋師であり、そのための作法を鍋道と呼ぶのだと。師範の位を持つものに与えられる、鍋奉行という称号を得るために、日夜修行に励んでいるのだとも。
鍋師として半人前である彼が一人前と認められるためには、三ヶ月間、他人の食事を賄わなければならないのだと言う。そこで白羽の矢を立てたのが私だったのだ。
私は強く思った。
なんだその荒唐無稽なデタラメは、と。
文字数 121,254
最終更新日 2023.04.30
登録日 2023.04.29
文字数 37,614
最終更新日 2020.04.30
登録日 2020.04.30
菓子の国の住人は、頭部が菓子でできている。型崩れや破損は彼らにとってそのまま体力低下や命の危機を意味するのだ。
その菓子の国々の一つ、和菓子の国は今、危機に陥っていた。
草加煎餅の一派から成るならず者たちは逆らう和菓子の顔を容赦なく潰し、国を牛耳ろうとしていた。
ある日、和菓子の国の町娘であるたい焼きは、行き倒れている見知らぬ菓子に出会う。
顔が湿って力が出ないと言うその焼き菓子は、どうやら異国の菓子のようだった。
たい焼きが彼を助けて話を聞けば、訳あって旅をしていると言う。
彼は、一炙りの恩にと煎餅組に立ち向かっていく。
文字数 10,725
最終更新日 2020.04.30
登録日 2020.04.30
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