では、飲食店の経営的に、簡単には新たに高価格帯のメニューを投入するということはできない事情があるのか。前出・江間氏はいう。
「店舗の運営にあたって、自分たちの強みやウリを大事にして前面に出していくことがもっとも大事です。これが差別化となり来店動機となります。他のお店のように高価格帯の商品を投入することによってお客の選択肢は増え、満足度が上がり、利益率も改善するという考えは正しいと思いますし、私も普段はその考えで店舗にアドバイスすることが多いです。
しかし、サイゼリヤは自分たちの強みを守るために、今後の方針、経営戦略として『値上げはしない』『安さを目指す』と宣言しましたから、オペレーションが今より煩雑になる=今よりコストが上昇する要因となることは現時点では考えず、『どうしたら価格を維持し、安さを喜んでくれるお客さまの期待に応えられるか』をベースに、対応策のひとつとしてメニュー数減少を進めているのでしょう。明確な強みやウリを持ってすでに繁盛しているお店ですから、自分たちの強みを弱めるような戦略は、そう簡単には取れないのだと思います。やろうと思えばできないことはないでしょうが、あえてやらない、その戦略を取らないだけだと思います。
かつて280円や300円といった全品均一価格の居酒屋が流行った時期があり、最初のころは重宝され流行りましたが、原価の問題で提供できるメニュー数が限られてだんだん飽きられ、他店との差別化が難しくなり廃れていった例もあります。ですので、あまりに絞りすぎることによってメニューを選ぶ楽しさや選択肢が減るという懸念はあるように思えます。安いからといっても毎日同じものを食べたい人は少ないでしょうし、世の中には他にも安い食べ物の選択肢はあります。現在のサイゼリヤには安さという差別化があり、安いサイゼリヤが好きなお客たちに支えられ繁盛していますから安さは大事ですが、この先は飽きさせないメニューや外食の楽しさを感じるメニューをより意識する時期がくるかもしれません」
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)