船井電機、破産の異常さ、不可解な点…純資産518億円で潤沢→数年で半減

純資産が急減

 同社の財務状況をめぐる不自然な動きも注目されている。船井電機・ホールディングス(HD)の財産等の状況をみると、2020年度には518億円あった純資産が、21年の秀和システムHDによる買収を経て23年度には202億円にまで減少。半減以上の幅で減っているのだ。

「まず、船井電機HDと、一般的に長らく認知されてきた船井電機は別物です。船井電機HDの23年3月期の事業報告書で、21年度に420億円あった純資産が22年度には256億円に減っていることが明記されています。総資産は724億円から757億円と逆に増えています。注釈には船井電機の22年度の純資産は439.5億円と書かれており、増えています。なので、少なくともこの時点で船井電機が新しくグループの支配者になった秀和システムHDなどによって何か財務の影響を受けたわけではないでしょう。船井電機HDの資産も一緒に減っていたならば現金が流出したようなことがあり得るでしょうが、資産は減っていません。

 そうなると考えにくいですが、新たにグループとして一緒になったいくつかの会社が債務超過になっていたり、過大な負債を背負っていたため、合算して純資産が減るという可能性はあります。あるいは逆さ合併と会社分割によってHDの形を整えた過程で、なんらかの会計処理でそうなった可能性はありますが、いずれにせよ情報が公開されていないため真相は不明です。

 22年度から23年度の動きは興味深いです。純資産は256億円から202億円に減り、総資産も757億円から714億円に減っています。現金が40億円以上減っている可能性が高いでしょう。それが単なる赤字による影響なのかもしれませんが、他の可能性も考えられます」(中沢氏)

破産には至らなかった可能性も?

 船井電機は創業者・船井哲良氏が08年に退任後、赤字が常態化して経営が安定しない状況が続いた。17年に船井氏が死去すると、北海道の病院で院長を務める長男は船井電機株の34.18%を相続。長男は複数の投資ファンドなどから株売却の話を持ち掛けられたが、船井電機に株譲渡の意向を示し、これを受け同社は秀和システムと協議し、秀和によるTOB(株式公開買い付け)によって上場廃止となり秀和の傘下に入ることで合意。秀和の上田智一社長が船井電機社長に就任して再建に取り組んでいたとみられるが、今年9月に上田氏は船井電機の社長を退任した。

「今となっては完全にifの話となってしまうが、もし出版事業の秀和ではなく投資ファンドの下で再建に取り組んでいたら、破産には至らなかった可能性はある。投資ファンドの目的は買収した企業の価値を高めて高く株を売り抜けることなので、厳しいリストラと抜本的な経営改革を敢行して船井電機を再建に導くことができたかもしれない。また、過去に1度、事実上破綻したこともあり業績も低迷していたとみられる脱毛サロンチェーン運営会社ミュゼプラチナムを昨年に買収して、結局1年で手放しているというのも不可解だ。明らかに経営が迷走していたと考えられる」(大手金融機関ファンドマネージャー)

船井電機の歴史

 1961年にトランジスタラジオなどの電機製品のメーカーとして設立された船井電機が大きく成長する契機となったのが、米ウォルマートとの取引開始だった。1990年代にウォルマートと提携し、全米の同社店舗で船井のテレビをはじめとするAV機器を販売。OEM(相手先ブランドによる生産)供給の拡大やオランダのフィリップスからの北米テレビ事業取得(2008年)などもあり、世界的に名を知られる存在となった。

 しかし、好調は続かなかった。2010年代に入ると、徹底したコスト低減による低価格を強みにシェアを拡大させていた船井電機は、海信集団(ハイセンス)やTCL集団など中国勢の台頭に押され業績が悪化。創業者である船井哲良・取締役相談役(当時)は大きく経営戦略を転換させ、北米向けの低価格のOEM供給から国内向けの4Kテレビなど高品質商品を自社ブランドで販売する方針にシフト。16年にはFUNAIブランドのテレビについてヤマダ電機(現ヤマダデンキ)と10年間の独占供給契約を締結するなどしたが、業績は好転せず。

 21年には出版社、秀和システムの子会社である秀和システムホールディングスのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止に。23年に持ち株会社制に移行し、船井電機HD傘下に事業会社の船井電機を置く体制となった。

 昨年度の最終損益は131億円の赤字で、24年3月期末時点での負債総額は約461億円。

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)