ネットで炎上した企業は謝罪やコメント削除などの対応をすると、対応しない場合よりも株価が大きく下落する、と東大大学院の研究論文が大きな関心を集めている。まるで、炎上した場合はスルーしたほうがトク、といわんばかりの結論に、「身も蓋もない」と話題になっているが、企業の危機管理の専門家は、この研究をどのように見ているのか。
「ネット炎上が株式市場に与える影響についての研究」と題する論文が、ネット上で公表されている。研究者は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の武田史子准教授と、同修士課程の森継哉氏。「2009年から2018年までの日本の上場企業を対象に、154件のネット炎上事例について、対象企業の株価反応を分析した」とする研究だ。
SNSが普及し、誰でも、いつでも、どこからでも、簡単に世界に向けて情報発信できるようになった。見たこと、思いついたことをその場ですぐにインターネット上に投稿できることから、ささいな出来事も瞬く間に多くの人の目に触れる可能性がある。企業にしてみれば、大金をかけて広告を出さなくても、何かのきっかけで商品やサービスが消費者に広まることもある一方で、不備や不祥事があれば、ネガティブな情報も一瞬で広まるリスクともなりうる。
実際に、一消費者が店舗で見た商品についてつぶやいただけで、その商品が大ヒットにつながることがある半面、飲食店の衛生状態が悪いと写真付きで投稿されたことがきっかけで閉店に追い込まれたケースもある。SNSの影響力が高まるにつれ、企業がネット炎上した際には、極めて繊細な対応が求められるようになったといえる。その流れで、炎上した場合には「速やかに、言い訳せずに謝罪に徹する」という対応が企業の鉄則であるかのように広まりつつある。だが、東大大学院の研究論文は、炎上対応はせずにだんまりを決め込むことがトクするようにみえる。
<154件の炎上のうち、80件は企業が対応をしなかった。残りは、謝罪をする、コメントを削除する、反論する、などの対応を行った。対象企業の株価は、対応をした方がしない場合に比べて、大きく下落した。対応の中では、企業が反論をしたケースが、その後株価がより長く低迷することが示された>(「ネット炎上が株式市場に与える影響についての研究」より)
炎上の内容については詳細な言及がないため、不祥事なのか、従業員の対応や商品に対するクレームなのか、はたまた運営のオペレーションに対する不満なのか、ひとまとめにして言及するのは難しい部分もある。だが、炎上規模の小さい事案は排除し、広範囲・爆発的に関心を集めている騒動を対象にして研究している。その結果、謝罪をする、コメントを削除する、反論する、などの対応を行った企業は、何も対応しない企業に比べて大きく株価を落としたというのだ。
そこで、日本初のネット炎上分析の専門機関である一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所の主席研究員・前薗利大氏に、この研究論文をどのように見るか、聞いてみた。
「前提として、事象ごとに異なるため一概にいえないというところはご理解いただきたいと思います。SNS上で話題になっている東大大学院の研究論文を見ると、『対象企業の株価は、対応をした方がしない場合に比べて、大きく下落した』とありますが、株価も会社の評価を計る尺度のひとつです。確かに炎上対応をすると一時的に株価が下がることはあるかもしれませんが、必ずしも対応しないほうがいい、とも言いきれないと思います。
『人の噂も七十五日』といいますが、ネット炎上しても時間が立てば沈静化していくので、無言を貫くのもひとつの対応方法といえます。しかし、無言はネット上の噂を暗に認めた、と受け取られる可能性があり、その対応が批判のネタになる恐れもあります」