日本を代表する世界的建築家・隈研吾氏の建築物に対し、疑念の声が噴出し始めている。きっかけは、同氏がデザインした「那珂川町馬頭広重美術館」のトラブルだ。通常ではありえないほどの早さで劣化が進み、開館から25年を迎える来年に向けて大規模改修を行うことになったが、その費用が3億円ほどかかるという。小さな地方都市には大きな負担だ。隈氏は、全国で多くの公共建築をデザインしていることから、ほかの建築物でも多大な修繕費用が必要になるのではないか、との懸念が湧き上がっているのだ。専門家に、隈氏の建築物について見解を聞いた。
隈研吾氏は、東京大学工学部建築学科を卒業後、東京大学大学院工学修士、慶応義塾大学大学院理工学博士。米コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所を設立。法政大学工学部建設工学科非常勤講師、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授、早稲田バウハウス・スクール講師、慶應義塾大学理工学部客員教授、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授、米イリノイ大学建築学科客員教授などを歴任。
現在は、東京大学特別教授・名誉教授、早稲田大学特命教授、東京藝術大学客員教授、岡山大学特別教授など、名だたる大学や地方自治体のアドバイザーや顧問職を務めている。さらに、隈氏は木材を使用したデザインが特徴的で、「和(日本)」をイメージした建築が多いことから「和の大家」と称され、高知県立林業大学校校長や、岐阜県立森林文化アカデミー特別招聘教授、一般社団法人日本ウッドデザイン協会会長など、「木」に関する団体でも多く名誉職を得ている。
そんな隈氏がデザインした栃木県那須郡にある「那珂川町馬頭広重美術館」が開館から24年を迎え、老朽化のため大規模改修を行うことになったが、同美術館における木材の使い方に疑問の声が上がり、大きな話題になった。地元の人たちによると、開館から5年ほど経過した頃には、すでに屋根や外壁に使われている木材がひび割れたり、朽ちたりしていたという。今回、大規模改修をするにあたり約3億円の費用を見込んでおり、町は改修費用の一部をクラウドファンディングでまかなうという。
那珂川町馬頭広重美術館は、主に江戸時代の浮世絵師・歌川広重の作品などを展示した美術館。地元産の八溝杉(やみぞすぎ)を細く加工して屋根や壁に格子状に並べ、斬新なデザインで当初は好評を博し、村野藤吾賞や公共建築賞特別賞、日本建築学会作品選奨などを受賞している。
だが、建築の専門家は、そもそもデザインの段階から問題があると指摘する。
「那珂川町馬頭広重美術館では、スギの木を屋根や壁に使用していますが、普通ではありえないデザインです。ヒノキなどの油分を多く含む材質であれば水に強いのですが、スギは室内や屋根の下など直接風雨にさらされない場所で使う材木です」(一級建築士で建築エコノミスト・森山高至氏)
隈氏は、ほかにも国立競技場など公共建築物を設計されているが、それらも同様に、比較的短期での大規模改修が必要になる可能性はあるのだろうか。
「隈氏に限らず、ほかの建築家でもあることなのですが、無名な頃には予算の少ない依頼を引き受け、そのなかで自分の名前を広められそうな目立つデザインをしたりします。那珂川町馬頭広重美術館も、そのひとつといえます。使っている材料にもよりますが、大規模改修が必要になるものも一部あると思います。一方、最近の作品では、そのような心配はないと思います。国立競技場や高輪ゲートウェイ駅、高尾山口駅などは問題ないでしょう」(同)