日本人の「スーツ離れ」が進むなか、「洋服の青山は、なぜいつも店舗がガラガラなのに潰れないのか」という話題が一部SNS上で注目されている。運営会社である青山商事の業績は不振どころか、2024年3月期連結決算は売上高・純利益ともに前期比増となっている。青山の好調の理由、そして経営のカラクリについて、専門家の見解を交えて追ってみたい。
AOKI、はるやま、コナカと並ぶ大手スーツ販売チェーンの青山。「洋服の青山」を全国に685店舗展開するほか、2プライス・スーツストア「ザ・スーツカンパニー」を57店舗、リペアショップ「ミスターミニット」を252店舗、フランチャイジー事業として「焼肉きんぐ」「セカンドストリート」「エニタイムフィットネス」なども運営(すべて国内店舗数)。青山商事の24年3月期連結決算は、売上高が1937億円、営業利益が119億円、当期純利益が101億円で、すべて前期比増となっている。
セグメント別業績をみてみると、スーツ需要の減退が指摘されるなかでも、「洋服の青山」「ザ・スーツカンパニー」が属するビジネスウェア事業は売上高が1332億円、営業利益は78億円で増収増益を維持している。
そんな青山をめぐって、少し前にあるX(旧Twitter)ユーザが「なぜあの客入りで倒産しないのか本当に謎」とポストし、一部で話題となっているのだ。青山の業績が拡大基調となっている理由について、アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏はいう。
「まず前提として、スーツ離れは確実に進行しています。青山の年間メンズスーツ販売数は15年前の09年3月期は262万着でしたが、24年3月期は117万着と55%減となっています。一方、客単価は2万5100円から3万1764円に27%増となっていることが業績伸長につながっています。
もう一つの要因としては、オーダースーツブランド『Quality Order SHITATE』への注力が挙げられます。19年に開始して、22年にはオーダースーツ専門店『麻布テーラー』の運営会社を完全子会社化してノウハウを吸収。すでに青山全店に導入しており、売上はこの3年で17億円から59億円に伸びています。青山のレディースの売上219億円と比較しても、将来的に大きな伸びしろがあるといえます。
パターンオーダースーツという領域には大きな商機があります。日本男性の消費者がスーツを初めて買う機会は大きく3つで、成人式、大学の入学式、就職活動ですが、スーツ市場には毎年、何もしなくても数万人規模の新規顧客が生まれるという特徴があります。そしてスーツ購入においては、人によって体格に差や特徴があり、既製品だけではどうしても限界が出てくるため、パターンオーダースーツの存在が必要になってきます。
ちなみに『店舗がガラガラのときが目立つ』という点についてですが、来店時間が他のアパレルとかなり異なっていて、駅近店舗に限った話ですが、平日も18時以降からが忙しくなるようです。これは、お客が仕事終わりに立ち寄るケースが多いためです」
青山の「SHITATE」は1着3万1900円からで、メンズ向けは「YA体(細め)」「A体(やや細め)」「AB体(ややゆったり)」「BE体(ゆったり)」の4種類ベースサイズごとに、身長160~185cmまで5cm刻みで用意され、生地は200種類以上から選ぶことができる。袖口やポケット、ボタン、スラックスのタックや裾上げなど豊富なオプションも用意されている。店舗を訪問してスタッフのサポートを受けながらカウンセリングから試着・カスタマイズの決定まで最短40分で完了し、購入から1年間は裾上げやウエスト調整、上着着丈詰めなどのアフターケアを受けられる。