化学メーカー・帝人の一事業「めちゃコミック」が1300億円で買収された理由

めちゃコミック
めちゃコミック公式サイトより

 電子コミック配信サービス「めちゃコミック」が米投資ファンドに1300億円で買収されると報じられ、さまざまな反応が起きている。国内最大級の漫画配信サービスが買収されることに驚く人もいれば、日本の漫画が外国企業に買われることに危機感を覚える人もいる。一方で、同サービスの運営元が帝人の子会社であることに驚く声も多い。そこで、めちゃコミックのこれまでの沿革をたどってみたいと思う。

 総合化学メーカーの帝人は、子会社インフォコムを10月に米投資ファンドのブラックストーン・グループへ売却する。インフォコムは国内最大級の電子コミック配信サービス「めちゃコミック」を運営するアムタスの親会社で、これによりめちゃコミックは帝人グループから離脱することになる。

 めちゃコミックは2006年、紙媒体の漫画が衰退する中、携帯電話向けに始まったサービスで、読者層は圧倒的に30~40代の女性が多い。その後、スマートフォンの普及に伴い、スマホやタブレット、パソコンへのサービスを順次展開。テレビCMなども積極的に行ったことで、国内の電子コミック配信サービスとしては最大になった。

 だが、疑問となるのは、なぜ繊維メーカーと知られる帝人が、電子コミックを展開しているのか、ということだ。

 帝人は1915年の創業以来、繊維メーカーとして成長したが、近年は医療医薬分野や自動車部品分野など、事業を多角化してきた。そのなかで生まれたIT部門を日商岩井(現双日)のIT部門と合併させてインフォコムが誕生。帝人の子会社とし、2004年にジャスダックに上場。

 インフォコムは、特に医療系システムで名を馳せたが、高いITの技術力を生かして携帯電話などへのコンテンツ提供を始め、電子書籍の配信も行うようになった。その電子書籍配信が急速に拡大し、「めちゃコミック」を展開するアムタスを分社化。インフォコムの2023年度の営業利益97.8億円のうち、電子コミック関連が75.4億円を占めるほどにめちゃコミックは成長した。

 一方で帝人の本業である繊維や自動車、ヘルスケア事業は低迷。相乗効果の低い電子書籍配信サービスを売却し、その利益を本業に回すほか、株主への還元に充てる見込みだ。

 紙媒体の漫画市場は大きく衰退するが、電子コミックは今や7000億円ともいわれる市場規模に達し、さらに拡大の見通しだ。中国や韓国、アメリカの企業も続々と参入をもくろんでおり、高値で売れる今、帝人は米投資ファンドに売却を決断したとみられる。

めちゃコミック売却で日本市場の転機になる可能性

 出版社で漫画の出版に携わる業界関係者は、北米の市場はブルーオーシャンだと述べる。

「実は北米の漫画市場は最近5年間で4倍に拡大しています。今回めちゃコミックを買収する投資ファンドは、日本のコミックやコンテンツ制作者を米国向け事業のために獲得したいのだと思います。もちろん、日本のコミックは米国や欧州でも人気が高いので、既存の作品も再編して欧米に展開することを狙っているのは間違いありません」

 さらに、日本の市場でもシェアを拡大できる可能性があるという。

「日本のコミック配信サービスも、最近は韓国勢に席捲されていますが、それはウェブトゥーンに乗り遅れたことが最大の要因です。ウェブトゥーンは韓国発祥の漫画形態で、スマホで読みやすいよう縦読みに特化した作品です。日本のコミック配信サービスは、紙媒体の漫画をそのまま電子化していること多く、ほとんどは横読みのコマ割りです。しかし、ウェブトゥーンは2028年には3兆円規模の市場になるとも予想されており、世界に打って出るにはウェブトゥーンに舵を切ることが不可欠になっています。

 なかなか大胆な方向転換ができずにいる間に、韓国のLINE漫画が日本市場を広く獲得してしまった状況ですが、米投資ファンドが入ることでシェアを取り戻す可能性は高いといえます。韓国の漫画は画力やストーリーが単調なので、日本の漫画がウェブトゥーンに全力を向ければ、勢力図は大きく塗り替えられるでしょう」

 帝人が本業との親和性の低さからめちゃコミックを手放す一方で、現在韓国のコンテンツに席捲されている電子コミック配信サービス市場が、再び日本のコンテンツで活性化するきっかけとなるのだろうか。

(文=Business Journal編集部)