三陽商会が2期連続の黒字を計上し、好調を維持している。反対に、かつて同社とライセンス契約を結んでいた英バーバリーが苦しんでいる。そのため、インターネット上を中心に、「三陽商会を切ったバーバリーが不調」と皮肉る向きが相次いでいる。だが、専門家は三陽商会とバーバリーの業績は関係ないと苦言を呈する。
三陽商会の2024年2月期連結業績は、本業のもうけを示す営業利益が前期比36.3%増の30億円、売上高は同5.3%増の613億円だった。
三陽商会はかつてバーバリーとライセンス契約を交わしていたが、2015年に契約を解除され、ライセンス事業を失った。それ以来6期連続で赤字となり、いわば“バーバリーロス”に陥っていた。その後、販管費率を抑えるなどコストカットを進めたほか、売上構成の65%を占める百貨店での売り上げが回復したことなどにより、2023年2月期に純損益が約21億円の黒字となった。
三陽商会が好調な理由について、アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏は次のように分析する。
「三陽商会が好調な理由は、販路である百貨店の業績が好調であることに連動していると考えられます。百貨店はインバウンド需要がコロナ禍から回復し、売り上げが伸びています。ただし、百貨店で調子が良いのは都心の店舗に限られています。
2023年の日本百貨店協会のデータでは、百貨店の免税売り上げが前年比2.7倍の4282億円でした。この数字も、2014年10月に現行の統計を取り始めて以降、最高記録を更新しており、今期は円安もあり訪日客が増えているので、さらに膨らむと予想されます。
また、観光庁のデータでは、今年上期(1~6月)の訪日外国客数は1777万人で、同期として過去最高を記録しています。さらに4~6月の訪日外国人消費額は2兆1370億円で、4半期として過去最高です。
三陽商会は、このインバウンド消費による影響が一番大きいと考えています」(磯部氏)
三陽商会としては、インバウンド消費を当て込み、都心の百貨店向けの商品展開をしているということなのだろうか。
「おそらく、地方と都心部では売れ行きに大きな隔たりがあると思います。もちろんオンライン販売も行っていますが、黒字の一番の要因は、訪日外国人の百貨店における消費だと考えています。外国人向けの商品開発をしているかは定かではありませんが、百貨店にテナント出店しているブランドとして、外国人客に支持されていることは間違いありません」(同)
インバウンド消費が拡大しているとはいえ、多くのアパレルブランドは今なお苦境にある。そのなかで三陽商会が好調なのはなぜなのだろうか。
「たとえば、オンワード、ワールドなどは“脱百貨店”の施策を進めてきました。ですから、10年ほど前に比べ、百貨店比率が下がっているはずです。その結果として、三陽商会ほどインバウンド需要の恩恵に預かりにくいのではないでしょうか」(同)
一方で、かつて三陽商会とライセンス契約していたバーバリーが極めて低調だが、その要因はどのようなことが考えられるだろうか。
「世界的な傾向で、高級ブランドは数字を落としています。たとえば、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの今年上期の業績を見てみると、大きく沈んでいます。また、グッチを要するケリングも同様です。両社に共通する要因は、中国の消費落ち込みが大きいことです。特にLVMHは、地域別売上高は3割ほどアジア地域が占めており、そのなかでも中国が大きな市場となっています。中国の消費落ち込みは、高級ブランドの業績不振の大きな要因となっているのです」(同)