他方で、日本テレビ側は漫画をドラマにするにあたって「原作をある程度改変するのは当然」という姿勢です。これは2次元の漫画と3次元の実写ドラマとではメディアの性質上の大きな違いがあるからです。日テレの報告書に「ドラマ化するための演出の都合等によって、改変が必要になってくる」と明記されていることからもはっきりしています。そうした双方の認識の差が埋まらないまま、最終的にはそれまでの脚本家では納得できないと芦原さん自身が終盤である9話と10話の脚本を書くことになりました。脚本家もここで突然外された格好になり、SNSで不快感を表明する事態にもなりました。
双方の報告書を読む限り、さまざまな点での了解事項の認識の違いやコミュニケーション上のすれ違いが重なったことが問題の背景にあったことがわかります。報告書には「不誠実」などと相手側を非難する表現も見られますが、そうなる前に何が必要だったのかを冷静に提示し合うことが必要だったと思います。
日本テレビと小学館の双方の調査報告書には再発防止策として、契約書を早期に作成することや、交渉での確認事項を「相談書」などの文書で共有化すること、原作者と番組制作者が直接面談することなど、共通するような提言が示されています。確かに技術的には、そうしたことがマニュアル化されれば、今後、担当者はトラブルを防止するための細かいチェックができるようになります。
ですが今回いろいろなテレビ局の関係者に聞いてみると、この問題に対する見解は局によってかなり温度差があることもわかりました。ある民放キー局のドラマ関係者は「もちろんウチでは絶対に同じことが起きないなどとは言えませんが」と前置きしながらも、原作がある漫画や小説などをテレビドラマ化する際にトラブルが起きないための対策を独自に講じていると明かしました。原作者や出版者と番組制作側との交渉には必ず法務部が関わるようにしているといいます。法務部は、会社に対する正式な抗議文書が来たり、訴訟沙汰になったりした時に対処する部署で、弁護士資格を持った社員が常駐する会社も少なくありません。この局にはこうした著作権に関係する交渉ごとを長く経験しているベテランの社員がいて、今回のようなケースにならないように早めに目を光らせているというのです。いわば、ベテラン社員の関与という「人間のチカラ」で同様な問題の再発防止を図っているといえます。
テレビの世界では番組の放送に関する不祥事が起きてBPO(放送倫理・番組向上機構)で議論されるようなケースになると、どうしても自社で検証した「調査報告書」を公表して細かい点までマニュアル化して再発防止を図る傾向が強まっています。BPOの放送倫理検証委員会も、日本テレビや小学館の報告書について6月14日の委員会で議論した内容を公表しています。そのなかには「ある程度の条件を互いに都合の良い解釈をしている可能性があり、この業界の根本的な問題点のような気がする」という意見もありました。この意見のように、自分たちから見た事実を「都合の良い解釈をしている」という印象はありました。BPOの放送倫理検証委員会は“放送倫理の要”として「放送局が自主的・自律的に問題を検討し、解決への道を図ることが望ましい」と考えているとしつつ、各委員の意見を並べるだけで終わらせています。その後の7月12日の委員会では、放送人権委員会がすでに審理入りを決めているテレビ東京の『激録・警察密着24時!!』についても放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めました。『セクシー田中さん』については、確かに「ドラマの内容自体に放送倫理上の問題があるわけではない」かもしれませんが、原作者の死という重大な結末を考えると、再発防止の意味からも、委員会として放送局がどのように考えるべきなのかをもっと明確に示したほうがよかったのではないかと思います。今後の委員会での議論に期待したいところです。