「電気運搬船」実用化へ、洋上風力発電の障害を解消…余剰の再エネ廃棄も解消

「洋上風力がEEZまで設置できるようになるが、日本はEEZでも水深300メートル以内の場所は10%程度だといわれる。浮体式の洋上風車も水深300メートル以上のところはあまり実績がない。陸から離れれば離れるほど風が強くなるので、沖合のほうが条件は良い。しかし、海底ケーブルがネックになっており、改善が必要だ。海底ケーブルの条件にしばられない電気運搬船ならば、どこにでも風車が設置できる」

 従来の海底ケーブルによる送電システムは、海底掘削等の設置コストや環境負荷が問題視されている。水深が浅く地震が少ないヨーロッパでさえ、海底ケーブルは年平均7~8回壊れるという話もあり、復旧までに約80日もかかるという。電気運搬船は、海の底に設置する海底ケーブルに比べ、地震や津波などの影響を受けにくいとされる。船で送電することで、送電システムの破損リスクを低減することもできる。また、大規模な災害時には、電気運搬船が停電の起きた被災地へ駆けつけ、電力供給支援を行うことも期待される。

港湾自治体や送配電事業者と覚書を結ぶ

「瀬戸内海みたいな波が穏やかな海域や近距離では、推進機関を持たないバージ船をタグボートで引っ張るような形も考えている」(大津氏)

 電気運搬船とバージ船をうまく併用することで、運用効率と経済性の向上を図るとしている。九州はとくに離島が多いので、再エネが進んでいない地域はバージ船で余っている電気を離島に届けるモデルが成り立つ。パワーエックスは昨年5月、九州電力と電気運搬船を利用した海上送電事業における覚書を締結している。

 また、昨年7月には室蘭市と、「電気運搬船及び蓄電池の開発及びその利活用による室蘭港のカーボンニュートラル形成及び地域の振興に向けた包括連携協定」を締結した。電気運搬船について、室蘭港を北海道の拠点として利用することについて協議を進めている。

 北海道には、約930ギガワット(GW)という膨大な再エネのポテンシャルがあるものの、北海道にはそこまでの電力需要はなく、本州への送電能力が不足している。将来的にどこまで送電能力が強化されるのか見込みはなく、再エネを捨てるような事態も予想される。

 同社が運搬船を着岸して充放電する場所として有効だと考えているのは、火力発電所の跡地。石炭の引き上げ港が併設されているところだ。例えば、横浜市のみなとみらいエリアでは電力需要が増えており、変電所や変圧所の新設が計画されているという。同社は今年4月、横浜市と東京電力パワーグリッドとの間で、横浜港におけるグリーン電力供給拠点の構築を検討する覚書を締結した。電気運搬船は、海を越えて新たな送電ネットワークを構築し、再エネの貯蔵・供給・利用を推進する可能性を秘めている。将来にわたって蓄電池のさらなる技術的進化が必要だ。

(文=横山渉/ジャーナリスト)