今回サイゼリヤで導入されているモバイルオーダーはどのような方式なのか。各テーブルにはテーブル番号とQRコードが印字されたプレートが設置されており、客はスマホでQRコードを読み取ると、スマホに注文用画面が表示される。利用人数や紙のメニュー表に書かれた各料理のコード(数字4桁)を入力し「注文かご」に入れていき、注文ボタンを押すと、料理が運ばれてくる。画面上には「追加注文」「店員呼出」というボタンもあり、追加での注文なども可能。食事が終了したら「会計する」を押し、スマホ画面に表示されるQRコードをレジで提示、店員が機械でそれを読み取って支払いに進むという流れだ。
「フルデジタル化」ではなく紙のメニューの確認と手入力が残るが、SNS上では以下のようにプラスの評価が目立つ。
<タブレットで注文したい商品探す方が面倒(しかも検索機能もない)なので、こっちの方がありがたい>
<リッチなUIのモバイルオーダーアプリは、視覚情報メインでわかりやすさを追求している代償として、1つの商品を選択するのに何回も画面遷移させられる傾向にあるから、対極的なこの攻めたUIを採用したのは興味深い>
<スマホ内メニューが見づらくてストレス溜まる店の方が圧倒的に多い>
PDFツール「AxelaNote」を開発・販売するTransRecog代表の小林敬明氏はいう。
「一見すると『素っ気ない』『ダサい』という印象を抱くかもしれませんが、非常に画面構成がシンプルで使いやすく、UI的に優れていると評価できます。デザインを見る限り、おそらくデザイナーがデザインしたものではないと思われ、社内で顧客のユーザビリティーをとことん突き詰めた結果として、このようなUIになったのではないでしょうか。一般的な飲食店チェーンでは、料理の写真が並ぶメニュー画面上から選択するかたちですが、サイゼリヤはかなり振り切ったUIになっているといえます。もともとサイゼリヤは紙のメニューから料理を選んで客自身が紙のオーダー票にコードを記入するという形態だったため、それがスマホ入力に切り替わるだけなので、お客もすんなりと移行しやすいという面もあるでしょう。
テーブルに備え付けのテーブル番号と注文用のQRコードが表示されたプレートは、主流の液晶画面ではなく電子ペーパーになっていますが、液晶画面だと見るヒトの方向によって見えにくくなることがあるというデメリットを回避するためだと思われます。
また、このような方式にすることによってシステム投資費用を抑制し、今後のメンテナンスもしやすくなっていると感じます。現在の形態が完成形ではなく、今後改良を重ねて進化させていくのではないでしょうか」
サイゼリヤ元社長の堀埜一成氏は著書『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)のなかで、システム投資について次のように綴っている。
「情報を一元管理し、必要な数値をいつでも参照できるデータウェアハウスをつくることにしました。部門ごとに、求める成果は何で、それを測るためにはどんな数字が必要か、ものすごく時間をかけて議論しました。外部のシステム会社に丸投げして、適当に現場をヒヤリングしてもらってつくる、という方法を採らなかったのは正解でした」
「まわりがタッチパネルを導入しているからといって、それに追随しているだけでは、いずれはシステム開発コストを吸収しきれなくなって、値上げしなければいけなくなる。それではコストリーダーシップは維持できません」
今回のモバイルオーダーのUIからは、同社の経営戦略の特徴が読み取れると前出・小林氏はいう。
「同社は最新技術をすぐに導入するのではなく、ある程度、成熟化・コモディティ化してから導入するという姿勢を持っており、例えば会計におけるQRコード決済への対応では、読み取り用端末上の決済サービスが数種類に集約されてから導入しました。モバイルオーダーも業界内で普及してきたところで導入しており、さまざまな選択肢を比較してどのような形態がより優れているのかを検証しつつ、コストを最小限に抑えることにつながっていると考えられます。このほか、同社は自社のノウハウを論文にまとめて世間に公表するなど、ユニークな取り組みも注目に値します」
(文=Business Journal編集部、協力=小林敬明/TransRecog代表)