「水産業に土地勘のない一企業がいきなり仲卸や大卸を買収しようとしても、相手から抵抗にあうので実現は難しい。漁協に加入して自社で船まで持って漁をするという実績と信頼があったからこそ、『サンコーさんならいいよ』ということで仲卸・大卸側の理解を得られた。新規参入が多くはない水産業の上流に入り込むというのは、なかなか目の付けどころがよい。卸が持つ多数の取引先への販路を獲得することで自社運営の飲食店以外からも売上を上げることができるし、飲食店側も自社の流通経路から安く仕入れてリーズナブルな価格で料理を提供できるのもメリットだろう。
サンコーの長澤成博社長が各種インタビューで言っているように、かつての都心出店重視の方針を転換して“山手線の外”、つまり住宅が多くオフィスワーカー需要に左右されないエリアをメインに出店していくとしており、経営戦略的に良い方向へ転がりつつあるようにみえる。出店ペースも東京チカラめしや金の蔵のように無理に速いということはなく、慎重かつ着実に出店を重ねている」(外食チェーン関係者)
そして今月には、約10年ぶりに「東京チカラめし」を出店(正式店舗名「東京チカラめし食堂」)。場所は都心の千代田区の九段第二合同庁舎地下1階。メニューは以下となっている。
・「焼き牛丼」並・大/680円、ごはん大盛り+具1.5倍/880円
・「ネギ焼き牛丼」並・大/780円 ごはん大盛り+具1.5倍/980円
・「キムチ焼き牛丼」並・大/850円 ごはん大盛り+具1.5倍/1050円
・(日替わり)カジュアル定食 650円
・(日替わり)ボリューム定食 750円
・(日替わり)彩定食 700円
・(週替わり)カレー 800円
外食チェーン関係者はいう。
「大手牛丼チェーン各社は牛丼の並盛を400円台で提供しており、東京チカラめし食堂の680円はかなり高い。注力する水産業との相乗効果も見込めないし、平日のみの営業で合同庁舎とその周辺のオフィスワーカーくらいしか集客が見込めない場所なので、出店の意図がちょっと分からない。集客的な反応をみるために試験的にオープンしたのかもしれないし、もしこれから積極的にチェーン展開していくつもりなら、もっと価格を抑えるだろうから、現時点では店舗を増やしていく予定はないのかもしれない。サンコーの戦略としては、とりあえずは水産業と飲食店のシナジー効果を追求する方針に専念したほうがよい気もする」
ちなみに昨年11月に閉店した「東京チカラめし」新鎌ヶ谷店の「焼き牛丼」はどのような味だったのか。
「かつてはフライパンに肉を入れ、タレをまぶして豪快に焼き上げていたが、現在では網に乗せた肉を大型のグリル用機械に入れ、焼きあがった肉にタレをかけて提供している。これにより、余計な脂が落ちて、以前のような脂まぶし飯になっていない。だが、肉の脂身部分が多く、肉というよりは脂身を食べさせられている感覚になり、これでは『牛肉の脂身丼』だ。
このクオリティーで580円という価格は高く、価格に妥当性があるとは感じられない。肉を焼いてご飯に乗せるだけなら自宅でも簡単にできるし、煙対策や後片付けの手間はあるものの、同じ金額でより質の良い肉をより多く食べることができるだろう」(重盛高雄/フードアナリスト/23年9月17日付け当サイト記事より)
東京チカラめし新店舗の集客ぶりが注目される。
(文=Business Journal編集部)