オープンな仕様に基づき複数の異なるベンダーのハードウェアから構成される無線ネットワークシステム「Open RAN」。同分野で先行するのがNTTドコモと楽天グループ(G)だが、NTTドコモが楽天Gと協力関係を構築することに言及したとして注目されている。
今、IT分野でAI(人工知能)とともに最もホットなテーマの一つとなっている「Open RAN」。通信事業者をはじめとする企業が無線ネットワークを構築する際、複数の異なるベンダーのハードウェアを使うことによりフレキシブルにシステムを構築することができ、またロックインと呼ばれる単一の提供ベンダーによる囲い込みの問題を解消することでコスト削減につながるとされる。
カギとなるのが共通仕様の整備だ。2018年、共通仕様を策定する「O-RAN Alliance」がNTTドコモやAT&T、ドイツテレコムなどによって設立。ドコモは自社でOpen RAN事業を展開してきたが、4月1日付けでNECとの合弁会社、OREX SAIを設立する。動作検証済のハードウェアやソフトウェアなどをパッケージ化し販売していく方針だ。
ビジネス化で先行するのが楽天Gだ。傘下の楽天シンフォニーは2月、Open RAN対応の集約ユニット(CU)と分散ユニット(DU)ソフトウェアへの商用アクセスをサブスクリプション型で提供するサービス「リアルOpen RANライセンシングプログラム」の開始を発表した。
「Open RAN対応のCU・DUのすべてのコードベースが含まれており、世界中で数百万もの基地局を展開する上で不可欠なものとなります。これらのコードベースは、LTE eMTC、5G FWA(固定無線アクセス)、5G SA・NSA、5Gプライベート・ネットワークなど、4G・5Gネットワークにわたる幅広い技術をサポートするように設計されています」(同社の公式リリースより)
楽天シンフォニーのOpen RAN技術はすでに楽天モバイルで実用化されており、ドイツのキャリア、1&1にも採用されている。2月にはウクライナの大手通信事業者キーウスターが楽天シンフォニーの技術を導入すると発表されており、フィリピンの通信事業者ナウ・テレコムも楽天シンフォニーの5G Open RANの試験運用に関する覚書を締結するなど、海外展開を進めている。
「後発で携帯電話事業に参入した楽天Gが大幅なコスト削減策として取り組んだのが、基地局ネットワークにおける仮想化技術の活用だった。自社の携帯事業で培ったその技術を海外キャリアに外販することで『一粒で二度おいしい』という効果を狙っていたが、まさにそれが今年に入り動きを活発化させているOpen RAN関連のビジネスだとみられる」(大手キャリア関係者)
そんなNTTドコモと楽天Gは2月に開催された世界最大級の通信見本市「MWC Barcerona 2024」(スペイン・バルセロナ)に出展。NTTドコモ社長の井伊基之氏は「楽天が持っている(編注:Open RAN関連の)ものも、本当は(OREX SAIで)一緒になってできると思っている。ウエルカムです」と発言(5日付「ITmedia Mobile」記事より)。一方、楽天G会長兼社長の三木谷浩史氏もNTTドコモの動きについて「われわれはオープンにしていこうよ、という方向性。でも、もしかしたら、そこでコラボレーションできるかもしれない」と語っているのだ(2日付「ITmedia Mobile」記事より)。
「楽天Gは、携帯事業を通じて磨いたソフトウェアとともに、導入や運用までを丸抱えで海外キャリアなどに売っていく戦略も描いている。ドコモや他社と協調すれば縛りが多くなってしまい自由度が低くなり、動きが遅くなるので、楽天Gに少なくともこの分野で国内の大手キャリアと協業していく気はないだろう」(大手キャリア関係者)