青森県に中国人観光客が殺到しているという報道が一部情報番組などで伝えられている。中国のSNS「微博(ウェイボー)」では青森県の公式アカウントのフォロワー数が130万となり、青森県の人口(118万人)を上回っているというが、果たして実態はどうなのか。また、外国人観光客の増加が地域住民の生活に悪影響を与えるケースも出始めており、国が推し進める「インバウンド集客増」一辺倒の政策は岐路を迎えつつある。
日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、昨年10月の訪日外客数は251万6623人となり、新型コロナウイルス流行前の2019年同月を0.8%上回り、単月としては初めてコロナ前の水準を上回った。昨年(23年)の1年間の訪日客数は2506万6100人(推計)で、コロナ前の約8割にまで回復。訪日客を国・地域別でみると、1位は韓国(695万8500人)で、次いで台湾(420万2400人)、中国(242万5000人)、香港(211万4400人)と続く。さらに訪日客の日本国内での消費額は5兆円を超えて過去最高となった。
訪日客の訪問先について、東京・大阪といった大都市圏から地方への分散化が期待されるなか、ある情報番組は前述のとおり青森県に中国人客が殺到していると報道。市場「青森魚菜センター」や「ねぶた」を展示している「ねぶたの家 ワ・ラッセ」などに多くの外国人が訪れる様子が伝えられていた。
「青森県の担当者に聞いてみたが、特に中国人客が急増しているという印象はないとのことだった」
こう話すのは立教大学観光学部教授の東徹氏だ。中国政府が昨年8月に日本への団体旅行を解禁した影響で、団体旅行客は増加している一方、個人客の伸びは限定的だ。
「パッケージツアーを利用する団体客は初めての訪日であることが多く、東京、大阪、京都など、大都市圏や有名観光地がメインであり、青森まで行くツアーがそれほど多いとは考えにくい。個人客であれば、ネット情報を見て行き先を決める人が多く、『ジャパン・レール・パス』などを利用して地方を訪れる可能性も高まる。旅行の自由度が高い個人客やリピーターが増加するにつれて地方分散化が進むことも期待される」(東氏)
多くの自治体が外国人誘客に取り組むが、どの国の人をターゲットにして、どのようなポイントをアピールすべきかなど精緻なマーケティングが必要だと東氏はいう。
「かつて北海道は、アジアでヨーロッパの雰囲気を味わえるという訴求が功を奏して、台湾から多くの観光客を誘客することに成功した。今でも東南アジアからの観光客にとっては、自国では見られない雪を見ることが魅力となっているし、季節が反対の南半球から訪れるオーストラリア人にとっては自国のオフシーズンにパウダースノーでスキーを楽しめるのが魅力だ。また、石川県は台湾人から人気だが、その理由は、石川県出身の八田與一という人が日本統治時代の台湾で東洋一の烏山頭ダムと水路をつくった『台湾農業の恩人』として現地ではよく知られており、偉人の故郷を訪ねることが目的になっているためだという。
様々な国からやってくる観光客がそれぞれ地域のどのようなところに魅力を感じ、訪れる理由があるのかを理解することが必要。『とにかく数を呼べばいい』という発想では駄目で、どんな人に来てほしいのかという『観光客を選ぶ』という考え方も重要だ。かつて金沢市の担当者に話を聞いたときに、『古都の魅力を感じたい人に来てほしい』『爆買いは金沢には似合わない』と明確に言っており、買い物によって多くのお金が落ちることよりも地域独自の持ち味を理解し、楽しんでくれるような観光客に来てほしいという姿勢を感じた。