すると、学力が低いとされる若者は行き場を失います。そして致し方なく、費用が高くなることを覚悟して近場の私立高を目指すことになります。
これを俯瞰すると、国や地方自治体は、公共事業費の無駄を省くという名目で高校の統廃合を進め、地域の若者を私立高に託していただけといえます。高校を直営するよりも、既設の私立高に外注してしまえば、確かに節約できるからです。
一方で、生活に困窮している世帯の子どもを救うべく始まった高校無償化(就学支援金制度)は、統廃合で浮いた予算を、公立なら年12万円、私立なら40万円程度を国の予算から支援(給付・無償化)するというものです。東京の場合、他県と比較して授業料が高いことから、私立高はさらに年8万円ほど積み増して助成されています。これ自体は決して悪い制度ではないのですが、公立高を減らして教育費を増加させておいて助成するという、マッチポンプとも見える制度であることをきちんと理解しなければなりません。
令和4年度の東京都内の公立高は186校(生徒数12万4000人)、私立高は237校(生徒数17万2000人)です。東京は私立大学の付属高が多いという事情もあるものの、高等学校の半分以上を私立に依存しすぎている点を改善できていないのも問題です。
高等学校授業料実質無償化は、そもそも国の予算で賄われています。今回の発表でわかったことは、都が負担するのは比較的高い所得を得ている世帯に追加で負担するにすぎません。低所得世帯の高校生にとっては、統廃合さえなければ進学できたはずの安価な地元の都立高を廃校としたために、負担の大きい私立高へ行かざるを得ないのです。これらは、本末転倒な部分も大きい支援制度です。今回の発表は、選挙目当てと思われても仕方のない発表と分析します。
(文=松本肇/教育ジャーナリスト)