東京都の小池百合子知事は2023年12月5日の会見で、高校授業料の実質無償化を実現する旨の発表を行いました。言うまでもなく、子育て世代の生活を東京都がサポートするという姿勢や、何かと家計の負担になる教育費が無償化に向かうことは歓迎すべきことです。
しかし、この高校授業料の無償化は、単純に喜んでよいものなのでしょうか。やはりここは、きちんと情報を整理しておきたいと思います。
子育て世代で、いま高校生を持つ親であれば、大半の方はご存じだと思いますが、実はこの高校授業料実質無償化という制度は令和2年度から、東京や大阪だけではなく、すでに全国で始まっています。
制度の趣旨としては、国の就学支援金制度を使い、世帯年収が約910万円までの世帯であれば全ての高校生に対して、公立高の授業料相当額となる年間約12万円について無償化(給付または免除)となたます。同じく世帯年収が約590万円までの世帯で、かつ私立高に進学した場合はさらに上積みされて年間計約40万円の授業料について無償化(給付または免除)されています。
今回の小池都知事の発表は、令和2年4月に国の予算ですでに拡充していた支援制度に加え、今まで適用対象から除外されていた世帯年収590万円、910万円のボーダーラインを超えてしまった世帯、つまり比較的高所得で、今まで支援を受けられなかった世帯について、授業料無償化を実現するものです。
つまり、都知事の発表は「生活に困窮している家庭の子どもたちが私立高へ進学しやすくなった」というものではなく、単に「高所得世帯にも授業料無償化を適用する」という発表であったととらえるべきです。
令和4年度の私立高の納付金の平均費用を見てみると、授業料が約44万5000円、入学料が約16万4000円、施設整備費等が約15万円、つまり初年度には約76万円が必要で、翌年以降は約60万円を支出しなければなりません。
この「平均」はあくまで全国であって、東京都の平均だと授業料が約48万円、入学料が約25万円、施設整備費等が約22万円と、初年度が約96万円、翌年以降は約70万円となっています。 そこから各年40万円が助成されるとしても、負担額が大きいことは否めません。それに加えて、制服購入費・交通費・教材費・修学旅行費といった出費も別途必要です。
例えば、生徒600人規模の1校を運営する場合、国や地方が負担する予算は年約6億円といわれています。ここから保護者が負担する授業料を差し引いて計算すると、高校生1人当たりの学校予算は年85万円程度ということになります。つまり、高校生1人に85万円に予算を割いていたことになります。
しかし、生徒数が少なくなればなるほど、学校運営にかかる経費は固定費の割合が高くなります。そこで、近隣の高校と統合してしまえば、ハコモノと呼ばれる施設を売却したり、他事業に転用することで、教育予算を節約できることになります。高校生1人にかけていた予算年85万円が半額以下の40万円になるのですから、節減効果はものすごく高いのです。
東京では平成15年度以降、都立高校が36校閉校しています。一方、大阪は平成24年度以降、府立・市立合わせて17校が閉校または閉校予定となっています。
統廃合を行う場合、ほとんどのケースでは、隣接する高校のうち、偏差値の高い高校を残し、そうでない高校を廃校とします。かつて「勉強は苦手だけど手に職をつけたい」と思う若者を多く受け入れてきた工業・商業高校などの専門高校等は早々に廃校対象となり、家計を支えながら学ぶ人たちを受け入れてきた定時制の課程も廃止してしまいました。