気になるのは、ネットフリックス式の少数精鋭主義への転換が、日本のクリエイティブな業種・企業の生産性を上げ得るか、ということだ。
「前提として日本では解雇規制が厳しいので、一挙・大量に整理解雇をすることはできません。労働者の意識も、1つの職場に固執しない米国とは違います。日本で2000年代にリストラが社会問題化した時の、職場の荒廃はひどいものでした。リストラの憂き目にあった人だけでなく、残った人も会社を信じられなくなり、傷つきました。新卒一括採用から、組織の和とチームプレイで勝つという文化はまだ続いていますから、同社の極端なやり方が日本でうまくいくとは考えにくいですね」
曽和氏によると、当の米国においてですらネットフリックスの手法は一般的ではないという。たとえばアップルは、ネットフリックスとは対照的に、社員をルールでガチガチに縛っている。自由なんてとんでもない世界だが、それでもアップルは世界最大の株式時価総額を誇っている。要は労務政策が事業と人に合っていて、機能していればそれでよいわけだ。
複数の調査によると、日本では以前よりも若い労働者の間で安定志向が強まっている。ネトフリ式が日本で広く受け入れられることはないだろう、というのが曽和氏の見立てだ。
曽和氏は、ネトフリ式の苛烈な個人主義とも日本の集団主義モデルとも異なる、第3の組織モデルを提唱している。
「私がかつて所属していたリクルートのやり方ですが、採用段階から研修、リスキリングに至るまで、人材の流動が自然に起きるよう、計画的に設計する方法です。私は『自ら変わり続ける組織』と言っています。採用時から自立心が強く、定年までいたいと思っていない人を採用する。社員に対して若いうちからセカンドキャリア支援を行い、起業したい人を応援する。従事する職務とは関係がないスキルの開発や、個々の将来像を描かせるキャリア研修も充実させる。このように『個』を育成すれば自然と人材の新陳代謝が起きるので、常にフレッシュな組織が社会や時代の変化を敏感に感じ取り、独創的なサービスを生み出したり買収したりする柔軟さを担保できます」
ネトフリ式の極端なやり方を横目でチラ見しながら、チームプレイの力と個人主義による労働者個々の自立を両立することが、これからの日本企業に問われているということだろう。
(文=日野秀規/フリーライター、協力=曽和利光/人材研究所代表)