新宿高島屋、売上が過去最高並みに急増の理由…小田急・京王から「外商」奪取か

タカシマヤタイムズスクエア(「Wikipedia」より/Gorgo)
タカシマヤタイムズスクエア(「Wikipedia」より/Gorgo)

 東京・新宿駅西口のシンボルだった小田急百貨店新宿店本館が閉館となり、渋谷の東急百貨店本店は閉店し、地方で百貨店の閉店ドミノが起きるなど百貨店不況が深刻化しているといわれている。そんな中、新宿高島屋が2022年度(2023年2月期)決算で過去最高に迫る売上高795億円を叩き出したことが話題となった。なぜ多くの百貨店が苦境にあえいでいる中で新宿高島屋は飛躍できたのか、その要因と最新の業界の構図を専門家が解説する。

 渋谷で半世紀以上にわたって営業してきた東急百貨店本店は1月31日に閉店し、渋谷に残るデパートは西武百貨店渋谷店のみとなった。西武百貨店渋谷店についても、セブン&アイ・ホールディングスは業績不振が続く「そごう・西武」を米投資ファンドへ売却する方針を示しており、それが実現すればファンドと組んでいるヨドバシカメラが出店するのではとみられ、遠くないうちに渋谷から百貨店が消える可能性がある。

 新宿では、小田急百貨店新宿店本館が昨年10月に営業を終了。売場面積を以前の8割減にして隣接する別館「ハルク」内に改装オープンしたが、すっかり存在感を失ってしまった。新宿は京王百貨店も再開発計画があり、開発完了後は百貨店として存続できないのではとの推測がある。また、池袋では「そごう・西武」売却後の西武池袋本店へのヨドバシカメラの出店をめぐって大揉めしており、東武百貨店も再開発計画があることから、こちらも将来的に街から百貨店が消えかねない。

 1月に発表された日本百貨店協会のまとめによると、2022年の全国百貨店売上高は計4兆9812億円。1990年代に年間10兆円弱あった売上高はほぼ半減してしまった。昨年末時点における店舗数は185店で、ピークだった1999年の311店から減少する一方となっている。もはや斜陽産業と言わざるを得ないような状況だ。

 ところが、先述したように新宿高島屋の2022年度の売上高は795億円で過去最高に迫る勢いとなっており、前年度の584億円から36%増という驚異的な伸びとなった。コロナ禍前だった2019年度の717億円をも上回り、驚異的なV字回復となっている。ただ実は、好調なのは新宿高島屋だけではない。業界トップの伊勢丹新宿本店は2022年度の売上高が3276億円となり、過去最高を叩き出した。売上高が3000億円を超えたのは1991年度以来だ。

高額品の販売が好調

 なぜ多くの百貨店が苦しんでいる中で、新宿高島屋や伊勢丹新宿本店は大躍進しているのだろうか。流通アナリストの中井彰人氏にその理由を解説してもらった。

「基本的に、東京や大阪といった大都市の旗艦店は売上が伸び、コロナ禍前を上回る百貨店が増えています。売上増の大きな要因としては、時計、貴金属、ブランド品など富裕層向けの高額品の販売が好調だったことが挙げられます。その中でも、新宿高島屋と伊勢丹新宿本店が大きく飛躍したのは、小田急百貨店新宿店の大幅な売場縮小と渋谷の東急百貨店本店の閉店が影響している。小田急新宿店と東急本店の『外商』の顧客だった富裕層などを、新宿高島屋と伊勢丹新宿本店が奪い合い、その結果が売上の好調ぶりに反映されたと考えられます。2021年度の売上は小田急新宿店が595億円、東急本店は635億円ありましたから、小田急が売り場を縮小して営業継続している分を差し引いても、合計で1000億円前後の売上が宙に浮いたとみられ、それを高島屋と伊勢丹がうまく取り込んだわけです」(中井氏)

 昨今の百貨店は「外商」などによる富裕層からの売上が重要度を増しており、三越伊勢丹ホールディングスの2021年度の個人外商売上高は790億円で、コロナ以前の2019年度(716億円)と比較して大幅増。伊勢丹新宿本店では、2021年度の買い上げ金額上位顧客5%による買い上げシェアが50.9%に達し、富裕層・超富裕層が売上を押し上げている状況が明らかになった。富裕層というと高齢者のイメージが強いが、同年度の49歳以下の外商購買額シェアは前年比5.3ポイント増の28.9%となり、若返りが進んでいるという。となると、将来的にも高額品販売が好調に推移していくとみられ、百貨店は富裕層をメインターゲットにするのが生き残りの道ではないかと考えられる。