奨学金の返済苦で自殺も…背景に貸与基準の緩和、多額の借金という理解の欠如

――スカラシップ・アドバイザーにはどんな人が起用されていますか。

小林 金融教育に詳しいという観点からファイナンシャルプランナーにお願いすることが多いのですが、ファイナンシャルプランナーの仕事は資産運用のアドバイスがメインなので、奨学金制度に精通しているとは限りません。22年4 月に高校の家庭科で金融教育が始まりましたが、私たちが調べたところ、ローンは少し取り上げられていますが、奨学金はほとんど取り上げられていません。したがって高校生が奨学金の仕組みを知る機会が少ないのです。

――家庭科の先生が奨学金制度をどれだけ把握しているかが問題ですね。

小林 私たちは17年の制度改正にともなって、全国半数の高校の奨学金担当者を対象に調査したところ、7割ぐらいの先生が「複雑すぎてわからない」という回答でした。進路指導や担任の先生になると、もっと理解が低いでしょう。ただ、高校の先生も仕事の負担が大きいので、これ以上の負担を求めることが難しいのです。

返済困難者に対する救済措置

――しかも返済するのは社会人になってからなので、JASSOは申請を受けた時点で返済能力を審査しようがありません。

小林 そこが非常に難しいところです。担保を設定するわけではありませんし、所得の低い人に貸すので貸し倒れのリスクもあります。どの国でも100%の回収が難しいことはわかっています。とくに日本の場合、有利子奨学金の主な財源は財政投融資であり、利子を付けて100%返さなればならないので、財務省はJASSOに強いプレッシャーをかけてきます。しかし申し上げたように、JASSOの組織力には限界があります。私は何度かJASSOの見直し会議に出席しましたが、金融機関の方が『JASSOが金融機関だったら破綻している』と指摘していました。

――返済困難者に対する返還期限の猶予、返還免除など救済措置は有効に運用されていますか。

小林 かつては返済猶予ぐらいしか設けられていませんでしたが、今では2分の1か3分の1の減額返還によるリスケジューリングなど、いろいろな措置が設けられています。ただ、多くの利用者が救済措置を知らないのです。在学中や延滞時にはJASSOから再三救済措置を案内していますが、返せない方は切迫しているので、なかなか救済措置にまで目が向かないという事情もあり、非常にまずい状況です。減額返還については返済期間が延びた分、金利が加算されるわけではありません。JASSOは「奨学金は学生ローンではない」という見解を持っており、確かに、たんなる学生ローンではありませんが、奨学金という概念が問題をややこしくしている面もあります。

――奨学金という言葉を改めたほうがよいのではないでしょうか。

小林 給付型ができたので、私は学資ローンという言い方でよいと思います。他の国でも学生ローンや学資ローンという言い方をしています。

所得連動方式・源泉徴収がキモ

――奨学金返還支援を実施する地方自治体について、内閣府は、特別交付税措置の拡充を行なったのに実施自治体が一定数に留まっていると指摘しています。何が背景でしょうか。

小林 かなり前から内閣府で問題になっていました。ひとつはこの制度自体があまり知られていないこと。もうひとつは自治体の費用負担が必要なので、なかなか乗ってもらえないのです。

――6月13日に閣議決定した「こども未来戦略方針」に、貸与型奨学金の減額返還制度の利用可能な年収上限引き上げや、所得連動方式の返還額算定における所得控除の上乗せ、あるいは授業料後払い制度の導入検討などが盛り込まれました。どのようなご意見をお持ちでしょうか。