日本政府は巨額助成金を投入…「日本の半導体産業が復活」が妄想だといえる根拠

 次に、経営破綻したエルピーダメモリを買収した米マイクロン広島工場には、465億円が助成される。また、広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて来日した欧米韓の半導体関連メーカーのトップらが岸田総理大臣と面談し、マイクロン広島工場には2000億円が追加助成される模様である(ブルームバーグの記事)。マイクロン広島工場は、総額5000億円を投資して、最先端露光装置EUVを導入し、これを1γと呼ばれる次世代のDRAMの量産に使う見込みである。

 さらに、NANDフラッシュメモリを生産している四日市工場と北上工場を共同運営しているキオクシアと米Western Digital(WD)には929億円が助成される。2022年後半から半導体市場は史上最悪レベルの大不況に突入したことから、2社の合弁交渉が急速に進められている。技術系の情報サイト“tom’s HARDWEAR”には、WDがキオクシアを買収すると記載されている。もしそのようになれば、四日市工場も北上工場も米国籍のNAND工場ということになる。

 そして、2022年11月に「2027年までに2nmのロジック半導体を量産する」と発表したラピダスには、700億円が助成される。加えて、西村康稔経済産業相は今年4月25日の閣議後記者会見で、ラピダスに2600億円を追加支援すると発表した(日経新聞4月25日)。

 以上のように、日本に新設・増設される半導体工場に、次々と政府が多額の補助を行うことになった。このことから、2000年以降、凋落し続けていた「日本半導体産業が復活する」と唱える人が増えてきたわけだ。それに対して、冒頭に書いた通り、筆者は大きな違和感を抱いている。

日本半導体産業の歴史を振り返る

 今一度、日本半導体産業の歴史を振り返ってみよう(図4)。もともと、日本半導体産業が世界的に強力だったのは、半導体メモリDRAMにおいてである。実際に、1980年代中旬にDRAMで世界シェア80%を独占し、そのおかげでDRAMを含むすべての半導体の世界シェアが50%を超えた。

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 ところが、1990年代にサムスン電子などの韓国メーカーが急成長し、安く大量生産する技術で日本を駆逐していった。その結果、2000年頃に日立製作所とNECが設立したエルピーダ1社を残して、すべてDRAMから撤退してしまった。そのエルピーダも2012年に経営破綻し、米マイクロンに買収された。

 DRAMから撤退した日本は、大規模なロジック半導体(System on a chip、SOC)に舵を切った。そのSOCを強化するために、図2に示した通り、国家プロジェクトやコンソーシアムを多数立ち上げたが、日本のシェアの低下に歯止めをかけることはできなかった。そして、2021年から今日に至るまでの半導体ブームがやってきたのである。そこで、「日本半導体産業の復活」が叫ばれるようになったわけである。

 では、復活させるのは、1980年代に世界を制覇したDRAMなのか? 確かに日本政府はマイクロン広島工場に多額の助成金を出すことになった。しかし、マイクロン広島工場は米国籍であるため、この工場のDRAM生産量が増えても、日本の復活とはいえないだろう。また、キオクシアとWDが四日市工場や北上工場で生産しているのはNANDであり、DRAMとは種類の異なる半導体メモリである。加えて、2016年以降のキオクシアの売上高シェアは20%以下、WDのシェアは15%程度であり、30~35%のサムスン電子には遠く及ばない(図5)。この状態で、日本政府が929億円を助成したところで、サムスン電子に追いつくとは到底思えない。