元国税職員、さんきゅう倉田です。好きな税務調査は「任意調査」です。
インフルエンサーの女性9人が東京国税局の税務調査を受け、2021年までの6年間に計約3億円の申告漏れを指摘されたことが、読売新聞によって報道されました。
税務調査を受けた女性らは、インスタグラムやユーチューブなどで数千~数十万人のフォロワーがいて、多くが首都圏在住の30歳代、広告主とインフルエンサーをつなぐ代理店から宣伝業務を受注し、化粧品や美顔器などを紹介していました。
東京国税局が2021年以降に税務調査を行ったところ、売上の計上漏れや無申告が明らかになり、9人のうちひとりは海外のペーパーカンパニーを利用した不正を行っていました。これを受けて、読売新聞は9人のうち数人に取材を申し込んだそうです。
基本的に、税務調査の結果が公表されることはありません。しかし、悪質な場合や多額な場合、社会的波及効果の高い場合に、どこからかリークされて、法人名や個人名、誤りや不正な内容、金額が新聞社によって明らかにされます。
今回のように個人名を公表せず、「インフルエンサー」と一括りにするのは珍しいように思います。すべてのインフルエンサーに税務調査をすることはできないので、個人名より職業を目立たせて報道させ牽制効果を狙ったものと考えられます。
ところで、9人のうち数人に取材を申し込んだということは、読売新聞は当該インフルエンサーの氏名や連絡先等を把握しています。一体誰がリークしたのでしょうか。
まず、管轄の税務署や東京国税局の職員が個人的にリークすることはありません。守秘義務が課せられているし、そんなことをする動機もない。複数の国税OBの税理士さんに確認したところ、「誰がリークするのかわからない。法的根拠もわからない」という回答でした。
推測になってしまいますが、国税庁の審議官、課税部長、調査査察部部長、徴収部長から話を聞いたり、国税の張り付き記者が総務課長から話を聞いたりしたのかもしれません。
メディアでは、税務調査の結果について「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」のどれかで報道されます。単純な誤りであれば「申告漏れ」、不正があれば「所得隠し」、査察部が強制調査を行い脱税と認定されれば「脱税」と表現されます。一般の方から見れば、どれも同じように感じるかもしれませんが、内容は大きく異なります。
今回は「申告漏れ」と表記されています。ほとんどのインフルエンサーに多額の不正が認められなかったのでしょう(売上を過少に申告していたという点で、一般的な感覚では「悪いこと」だと思いますが、所得税の税務調査においては、不正とされない場合も多いようです)。
しかし、うち1名はペーパーカンパニーを用いた売上除外なので、「所得隠し」とされてもよい明らかな不正です。ただ、9名の調査の結果を総合的に考えて、「申告漏れ」としたのだと思います。
税務調査を行った結果、偶然申告漏れが見つかったわけではないと思います。事前に申告漏れの情報を掴んで、銀行に預金口座などを照会してから、調査を行ったのではないでしょうか。つまり、インフルエンサーに仕事を依頼する代理店に対して税務調査か情報照会があり、その情報とインフルエンサーの申告事績を突合して、金額に乖離がある人間に対して税務調査をしたのではないでしょうか。
リークが問題にならないのか、と疑問を持つ方がいると思います。ぼくも長年、疑問に思っていました。あれだけ守秘義務について口酸っぱく指導するのに、組織としてのリークは問題視しないのかと。当局の見解はわかりませんが、過去の下級審判決で違法性が問われなかったことがあるため、公共性が高ければ個人の情報保護より優先してリークが行われるものと考えられます。
確定申告の期限を過ぎても申告できますので、まだ申告していない方や不安な方は税務署や税理士さんに相談しましょう。期限を過ぎたり、領収証などを保管していなくても、怒られたりしません。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人:外部執筆者)