世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics、WSTS)のデータによると、MPU(プロセッサ)の四半期ごとの出荷額と出荷個数は図2のようになる。まず、出荷個数に着目してみよう。MPUの出荷個数は2011年Q3に1.45億個でピークアウトして減少する。これは、PCの出荷個数の動向と同じ現象が起きているといえる。つまり、スマホが普及したため、PCが売れなくなり、その結果、PC用MPUの出荷個数が減少したわけである。
ところが、MPUの出荷個数は2013年頃から上下動しながら増大し始める。これは、人類が生み出すデータが指数関数的に増大し、クラウドサービス提供企業が競ってデータセンタを建設し始めたことに起因する。つまり、データ量爆発の時代を迎え、データセンタ用のサーバー需要が急拡大した。そのために、サーバー用のMPUの出荷個数が増えていくと解釈できる。
しかし、MPU出荷個数は2016年Q3に1.36億個でピークアウトし、2019年Q1に8900万個まで減少する。これは次のように解釈している。2016年にインテルが14nmから10nmに微細化を進めることに失敗した。その後、インテルは、微細化は14nmのまま、MPUの高性能化を図らなくてはならなくなった。その手法が、1チップ内のコア数を増やすというものだった。しかし、コア数を2→4→6→8…と増やしていくと、性能は上がるが、チップサイズが大きくなる。すると、1枚のシリコンウエハから取得できるMPUの数が減少する。そのため、2016年から2019年にかけてMPUの出荷個数が減少していった。
以上の結果、2019年に世界的なMPU不足を招いてしまった。そして、サーバー用やPC用に生産されたDRAMとNANDが市場に溢れかえってしまい、価格が大暴落した。その結果、ひどいメモリ不況が到来した。要するに、2019年のメモリ不況はインテルが10nmの立ち上げに失敗したために起きたといえる。
しかし、2019年Q1以降、上下動しながら、MPUの出荷個数は増大していき、コロナ特需が起きた2021年Q4には1.4億個まで回復した。にもかかわらず、2022年に入るとMPU出荷個数は激減し、同年Q3には1.04億個になってしまった。このように、2022年に入ってPCの出荷台数が減少していることと並行して、MPUの出荷個数も減少している。今度はMPUの出荷額に注目してみよう。その出荷額の急減はあまりにもひどい。
2011年から2018年頃まで、上下動はあるもののMPUの出荷額は、四半期あたり100~120億ドルで推移していた。それが、2018年以降、上下動しながら増大していき、2022年Q3に四半期としては過去最高の184億ドルを記録した。ところが、同年Q4に113億ドルまで急降下している。つまり、MPUの出荷額は、2022年Q3からわずか3カ月後のQ4に、40%も減少してしまった。MPUの出荷額が短期間でこれほど急減少したのは過去に例がない。筆者もグラフを書いていて、最初は何かの間違いではないかと思ったほどである。もし2022年Q3までのグラフだったら、「MPUの出荷額は順調に成長している」と解釈してしまうところだった。しかし、たった3カ月で事態は急変した。
それでは、プロセッサの世界シェア1位のインテルと同2位のAMDの売上高や営業利益率などの業績はどうなっているだろうか。MPUの出荷額の急降下のダメージを受けているのは、一体どちらか。ちなみに、インテルは設計から生産までをすべて自社で行う垂直統合型(Integrated Device Manufacturer、IDM)であるが、AMDは生産をTSMCに委託しているファブレスである。