東芝、続く漂流、複雑な利害調整の壁…日本産業界の総力を結集した買収でも再建難航

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東芝のHPより

 2月9日、東芝は日本産業パートナーズ(JIP)などの連合から、買収の最終提案を受けたと発表した。報道されている内容からすると、JIPは2兆円規模の買収提案を東芝に行った模様だ。資金拠出の内訳は、ロームなど約20の企業が約1兆円を出資し、3つのメガバンクをはじめとする金融機関は約1.2兆円を融資する。事実上、日本の産業界の総力を挙げて東芝を買収し、事業運営の立て直しに向けた取り組みが実現しようとしている。

 それは、今後の東芝の事業運営にとって必要な一歩だ。しかし、それが東芝の長期存続を支えると論じるのは早計だろう。短期的に、東芝の業績悪化懸念は高まりやすい。過去の増資などに応じた物言う株主など多用な利害を東芝がどう調整できるか、不確実な要素は一段と増えやすくなっていると考えられる。中長期的に東芝がどのように成長を目指すか、事業運営の基本方針なども明確にはなっていない。事業環境の不安定感高まる状況下、東芝は迅速に今後の再建計画を策定し、組織全体が向かう方向を明確に社会に示すことができるか否かが問われる。

当初の想定以上に難航する東芝再建

 東芝の経営再建に、想定された以上の時間がかかっている。その一因として、終身雇用・年功序列という雇用慣行の影響は大きい。米国などでは企業は雇用を調整弁にして経営再建を行ったり、景気循環に対応したりすることは多い。それと異なり、日本企業にとって大胆な雇用の調整は難しい。加えて、東芝経営陣は短期間で集中してすべての経営管理上の問題を解決することもできなかった。むしろ、上場維持など目先の体裁の維持を過度に重視した。結果的に経営再建は長引いている。

 根本的な問題は、2006年、米原子力大手ウエスチングハウスの買収にさかのぼる。その後、リーマンショックなどの発生によって、東芝の事業運営体制は不安定化した。収益力の低下を食い止めるために、一時、経営陣は過度な収益獲得を現場に指示した。その結果、2015年に不適切な会計処理の問題が発覚した。それ以降、東芝の経営体力は急速に低下した。一時、東芝は投資ファンド出身の経営トップを招き、事業売却などのリストラを進めた。しかし、収益力は向上せず、2017年3月にはウエスチングハウスの経営破たんなどによって債務超過に陥った。その後、投資ファンドなどを引受先に約6,000億円の増資を行い債務超過から脱した。また、東芝は稼ぎ頭であった東芝メモリ(現キオクシア)を売却した。

 巨額増資の実行は、その後の東芝再建を一段と困難にさせている。メモリ半導体という収益の柱を失った東芝にとって、物言う株主に納得してもらえるだけの成長戦略を立案し、実施することは難しい。そのため、過去に検討された海外投資ファンドによる買収や、分社化による事業運営の加速化などの案は実現しなかった。経営陣は交代し、組織全体で不安や動揺は一段と高まっただろう。追い打ちをかけるように、米中対立、コロナ禍の発生、ウクライナ紛争などによって世界経済の成長率も低下した。その結果、東芝にとって、総合電機メーカーから社会インフラ関連の製品やソフトウェア開発によって成長を目指すことは一段と難しくなっている。その状況下で、JIPは国内企業や金融機関の参画を取り付けて東芝に買収を提案した。

一段と高まる業績の不透明感

 一方、ここにきて東芝の業績先行きの不透明感は高まっている。まず、世界のメモリ装置市場では需要が急速に減少している。2022年10~12月期、ハードディスク装置(HDD)世界最大手の米シーゲート・テクノロジーは営業損益が赤字に陥った。米欧での利上げによる企業の利払い負担増加、半導体など先端分野での米中対立の先鋭化懸念などを背景に、世界的にデータセンタの建設は鈍化し、大容量のHDD需要は減少している。