茨城県の大洗町で今、ハマグリの密漁が増加して問題になっている。昨年11月にニュース番組『Live Newsイット!』(フジテレビ系)内で放送された映像には、潮干狩りが禁止されているエリアの波打ち際などで黙々とバケツに茨城名産のハマグリを入れる男性の姿が映し出されていた。ハマグリの取引価格は高騰を続けており、9月には1kgあたり1682円という最高値もつき、密漁に拍車をかけているようだ。そこで今回は海洋問題に詳しい東海大学海洋学部の山田吉彦教授に、密漁問題がなぜなくならないのかを聞いた。
まず、密漁の定義を確認しておこう。国が定める漁業法と水産資源保護法の法令に基づき、各都道府県知事が、農林水産大臣の認可を経て漁業調整規則条例を制定しており、密漁というのはそれらへの違反行為を指す。
漁業法や水産資源保護法の違反を犯した場合は、3年以下の懲役または3000万円以下の罰金となる。具体的には、特定水産動植物を許可なく不当な利益を得る目的で獲ったり、違法に獲られたものと知りながら運搬、保管、有償もしくは無償で取得したり、処分の媒介・あっせんをしたりした場合だ。
一方で、漁業調整規則条例の罰則規定は各自治体によってバラバラ。例えば千葉県の漁業調整規則条例には「6月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とあり、過去には千葉県館山市の海岸でサザエやアワビを密漁した50代の男性が、略式起訴を受けて罰金10万円を支払った事例もある。しかし、これらの運用は自治体の判断に任されている。
「農林水産省が発表している『違反者区分別の検挙件数の推移』という密漁に関する調査結果によると、2007年頃を境に、漁業者による違反操業が減少している一方、漁業者以外による密漁が増加傾向にあります。加えて、同じく農林水産省がまとめた『対象水産動植物別の検挙件数に占める割合(海面)』では、全体の50%を超えるのが『貝類』の密漁です。こうしたデータからもわかるように、近年密漁問題で顕著になっているのが、今回話題になった大洗町でのハマグリ密漁のような個人での密漁なのです。例えば、潮干狩りやキャンプのついでに、サザエやハマグリを個人消費目的で獲る場合や、地元の人が貝を晩御飯のために獲る場合も、違反区域で行っていれば立派な密漁。むしろ、密漁はこうした個人が行っているケースが大半を占めています」(山田氏)
このほかにも、反社会的組織が計画的に密漁を行っている事例もあるようだが、密漁の大半の実態は悪意のない無自覚な一般市民によるものなのだ。
「ただ稀に、一般人でありながら地元の小売店や料理屋に格安で密漁品を流す人もいます。要するに悪いことだと自覚して、悪意を持って行っている個人も一部いるわけです。こうした場面で厄介になってくるのは、彼らは自分からは決して『これは密漁品です』などとは言わないところ。買い付けるお店も売りに来る人たちが漁業権を持っているかどうか確認することは少ないですし、?をつかれたら確かめる術はほぼありません」(同)
知らず知らずのうちに密漁者に恩恵を与える構造が容易に生まれてしまうのも、こうした犯罪行為がなくならない理由のようだ。
そんな一般人による密漁だが、取り締まりが思うように進んでいない現状があるという。
「個人で行う密漁というのは、いつどこで誰が行うかの予測が非常に困難です。加えて、密漁防止のための監視は、主に地元の漁業組合員や自治体の監視員が行っているのですが、その人数は犯行の数に対して圧倒的に足りていないのが実情です。