2005年につくばエクスプレスが開通したことも、街の変化を大きく促したのだという。
「新宿、渋谷、池袋など、東京にはトラフィックノード(交通結節点)と呼ばれる街がいくつかあります。しかし新宿は別格として、その他の街は必ずしも東西南北どの方向からでもアクセスが優れているわけではありません。この点、秋葉原は東西南北どの方向からのアクセスにも優れ、つくばエクスプレスの開通によって東京有数のトラフィックノードになりました。これにより、秋葉原では再開発されたクリーンなエリアを中心にオフィス需要が急増し、様変わりが加速していったのです」(同)
こうした再開発やオフィスビル増加の流れとは別に、「電気街」「オタクの街」としての秋葉原も、時代変化の影響を受けているのだそうだ。
「同人誌を中心とした漫画関連商品などを取り扱う書店『とらのあな』が今年8月に、創業の地でもある秋葉原を含めた5店舗を閉店させたことが話題になりましたよね。これは店頭販売部門の採算性が悪いからだそうで、今後は通販部門に投資を集中していくそうです。店頭販売の収益減少はコロナ禍の影響も当然あるでしょうが、こうした秋葉原のサブカル文化を支えていた店たちがネット販売にスタイルをシフトさせていること、そしてそもそもネット販売文化が急成長していることは、確実に秋葉原の変化に影響を与えているでしょうね。これはオタクブームに押されて減少傾向にある電気街でも同様で、『秋葉原に来ないと買えなかった物』がオンラインで買えるようになり、街の特別性が徐々に薄まりつつあるわけです。
戦後のラジオ部品から、家電量販店での白物家電ブーム、そしてゲーム・アニメ文化と、秋葉原は『電気』を軸に変化してきた街です。これは大きな強みであると同時に、時代の影響を如実に受ける弱点でもあったのでしょう」(同)
池田氏は、時代変化の影響で体力の弱まった「電気街&オタクの街・秋葉原」にとって、先に解説したオフィスビルや駅前大型ビルへの集客増加は、負担になっている部分もあると話す。
「秋葉原は再開発の影響で地価が上がり、賃料も上がりました。これは廉価商品が売りだった電気街にとっては大きな打撃。高い家賃を払いつつ安さを維持するのは至難の業です。オタク系の店にとっては、再開発で街の客層が変わったことは、もともとあったコミュニティの一体感を薄め、客足を遠のけさせることにもつながった気がします」(同)
最後に、今後秋葉原がどのように変化していくのかについて聞いた。
「神田青果市場跡地の再開発で誕生した大型複合施設『秋葉原クロスフィールド』の開発コンセプトは『未来を担うIT拠点の形成』となっており、秋葉原が歴史をとおして築いてきた電気のイメージを、形を変えて継承しようとする意思が読み取れます。行政もこうしたイメージが街のシンボルであることは尊重していきたいのでしょう。
電気部品街、家電量販店街、ゲーム・アニメ文化の街と様変わりを続けてきた秋葉原。目の前のことだけを見ると『秋葉原が終わってしまう』と感じるかもしれませんが、より大きな視点で見ると『電気を軸にした新たな街』に変貌している最中ともいえるのでしょう。個人的には、裏通りの電気街やアニメ系ショップも、規模は縮小してもその街の文化なので、なんとか存続してほしいですね」(同)
スクラップ&ビルドで様変わりを続けている今の秋葉原。だが、世界からも評価されるサブカル的な街の文化はいまだ残っている。それを再度活性化させることは行政の役割でもあるだろう。培われた歴史があるからこそ、そこを基盤に新たな未来を描くこともできるはずだ。
(文=A4studio)