簡単にまとめるならば、Slackは組織内での業務遂行、Discordは自発的なコミュニティの創出に適しているツールだということか。
「連絡手段にくわえ、さまざまな機能を兼ね備えたという面では、どちらも同じ目的を達成することができるチャットツールでしょう。しかし、ツールの設計や仕組み、メインとなるチャットのつくりはかなり違うので、似たようなツールとはいえませんね」(同)
SlackよりもDiscordのほうが、気軽に会話を続けられる仕組みになっているという。
「Slackは職場で使用するツールの印象が強く、仕事という意識、圧迫感を覚える人が少なくなく、会話もかしこまった内容になりがち。対してDiscordは、もともとの設計思想が趣味、エンターテインメント、ゲームから出発していますので、コミュニケーションに対するハードルが低めになっているのではないかと思います。会話のノリも業務報告といった堅苦しいものではなく、ネット掲示板のようなライブ感と言い換えることもできますね」(同)
また両者のUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)の違いも大きいそうだ。
「Slackはチャットルームがたくさん立ち上がる形になるので管理が大変。会社、部署、社員同士の1対1、取引先などすべてのチャットルームを確認しなければなりません。一方、Discordは、サーバー内であれば、基本的にひとつのウインドウの中で完結します。メッセージを送るにも、ファイルを共有するにも全員向け、個人向けと分けられますし、いちいち別ウインドウを開く必要がないからです。
また電話など機能がたくさんあるので、インターネットで考えられるコミュニケーションを即座に行えるのもDiscordが使いやすいと考えられる理由のひとつでしょう。ですからDiscordはビジネスの連絡手段としても有効に使えるかもしれませんね。現にゲーム、ネット文化に根差した職業であるVTuberやe-sports系の事務所ですと、Discordを社内ツールとして利用するところも多いようです」(同)
SlackとDiscordでは基本料金も異なる。Slackはビジネスとして導入するのであれば、中小規模の組織向けプラン「プロ」でも月々925円。しかし、Discordは有料プランこそあれど、おおよその機能は無料で利用できる。このような課金の有無が両者の導入のハードルを変えているともとれる。ただ現状、ビジネスの現場ではSlackのほうが圧倒的に普及しているのは事実だ。
「やはりDiscordは、ゲーマー向けという先入観があるからか、ビジネスで利用する発想に至らない企業がほとんどなのではないでしょうか。Slackは企業向けに作られたツールで普及もしていますし、導入、管理がしやすい。一方のDiscordは、企業をベースに設計されていないので、導入するとなってもしっかり運用できるかどうかという懸念があります。
またDiscordは、セキュリティ対策をしっかりする必要があります。身元不明の招待リンクを開いてアカウントを乗っ取られる詐欺やサイバー攻撃など、Discordからはネット犯罪の被害をよく聞きます。顧客の機密情報を管理する会社はそんな危険性があることも留意すべき。そう考えると、Slackはシステムに慣れてしまえば、機能を駆使してコミュニケーションを取れる最適なビジネスチャットツールです。Slackを導入している会社同士であれば連絡もスムーズにいきやすいのもメリットでしょう」(同)
では最後に結論をまとめていただこう。
「結論としては、どちらも優秀なツールであることは確かというのが前提で、会話の弾みやすさはDiscordに軍配が上がり、企業への高い普及率による利便性ではSlackに軍配が上がるでしょう。もしDiscordをビジネスとして使うのであれば、納品物のやりとりを頻繁に行う動画制作やイラストレーター、デザイナーなどのクリエイティブ系の仕事が適しているのではないかと思います」(同)
どちらを導入するか迷っている場合は、業界・業種、利用者属性などを踏まえて検討する必要がありそうだ。
(取材・文=文月/A4studio)