さほど目立たず、ネット上の話題にあがる機会が多いとは言えないが、実は今夏ドラマで最も厚い支持を集めていた『石子と羽男 ―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)が、ついに最終回を迎える。
リアルタイムの視聴率こそ個人・世帯ともにふるわなかったものの、タイムシフト(録画)視聴率と配信再生数は、今夏ドラマで終始トップを快走。特に配信再生数は、『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)に次ぐ2022年の2位の座が有力視されている。
つまり、「録画や動画配信を使って、自分の好きなタイミングでじっくり見たい」という視聴者が多かったということだろう。
では、なぜそれほど「じっくり見たい」という視聴者が多かったのか。盛り上がるであろう最終回の見どころとともに掘り下げておきたい。
『石子と羽男』のコンセプト自体は、率直に言ってかなり“地味で保守的”なものだ。
刑事、医療と並んで“3大保守的ジャンル”と言われる法律である上に、主人公の2人はマチベン・羽男(中村倫也)とパラリーガル・石子(有村架純)。もともと法律は中高年層が好きなジャンルの1つであり、『石子と羽男』は、『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)のような大企業案件や、『99.9 -刑事専門弁護士-』(TBS系)のような刑事事件を扱う派手さがない。
しかし、その“地味で保守的”は、裏を返せば親近感につながる。下記に、これまで同作で扱われてきた案件を挙げていこう。
「カフェでスマホを充電」「小学生がスマホゲームで高額課金」「映画の違法アップロード」「電動キックボードの交通事故」「木の枝と騒音のご近所トラブル」「マンションの事故物件」「キッチンカーの破損とネグレクト」「グルメサイトの情報削除」
いずれも視聴者の半径数メートルレベルで起きる庶民的なトラブルであり、「ちょっと見てみようかな」「どんな結末になるのだろう」と好奇心をくすぐるものばかり。巨悪の不正をただす痛快さがない反面、普通の人々が救われていく様子にほどよい爽快感を得られる。
それを「現在、ドラマ演出の美しさでは業界トップクラス」と言われる塚原あゆ子監督が手がけていることもポイントの1つ。保守的なジャンルの地味な主人公も塚原監督の手にかかれば、時に華やかなジャンルのカリスマにも見えてくる。
その塚原監督自身、同作が保守的なジャンルの地味な主人公であることをわかっていたからなのか、序盤から「やりすぎ」「見づらい」の声も出てしまうほど、その映像手法は凝りに凝りまくっていた。まだその名残はわずかにあるものの、登場人物のキャラクターが浸透したこともあって批判の声はほぼ消えている。
しかし、9月9日放送の第9話では、ついに大きな刑事事件が発生。大庭(赤楚英二)が放火殺人容疑で逮捕され、石子と羽男が彼の容疑を晴らすために奮闘する様子が描かれた。
結局この事件は、弟の拓(望月歩)が巻き込まれたもので、大庭はかばって逮捕されたことが認められて釈放。放火は死者の自殺偽装だと思われていたが、拓が「放火の現場にもう1人いた」ことを証言したことで、このエピソードは最終話に持ち越された。
ここにきて殺人という凶悪事件を扱い、初の2話完結にしたのは、「最後のエピソードだから」にほかならない。また、第5話の初登場時から、誰もがわかるラスボス感を醸し出していた御子神(田中哲司)と対峙し、成敗するにふさわしいスケールの事件とも言える。
その御子神の役柄は、創業まもない企業に出資する“エンジェル投資家”。その実態は大庭が巻き込まれた不動産投資詐欺の黒幕であり、第9話の焼死者を殺害した実行犯である可能性が高く、もはや「誰が犯人か」ではなく「どう悪事を暴いていくか」が焦点となる。